虫刺され薬「ムヒ」は語源もシェアも無比 富山から全国ブランドになった100年 池田模範堂「ムヒ」(上)
液剤市場に参入、シェアトップに浮上
「ムヒ」の名前が付く製品は2桁にのぼる。様々な効果を引き出す成分を開発・配合してきた積み重ねが幅広い製品群を築き上げた。「ムヒ」ブランドへの信頼感を高める上でもラインアップの厚みが一役買っている。 研究開発の苗床になっているのは、自前の研究所だ。「新製品の開発や既存製品の改良に役立つ成果を上げている」(小嶋氏)。2014年には本社敷地内に研究開発棟「MUHI SKIN RESEARCH CENTER」を新設した。 研究所の内部は各部署を区切る間仕切りがほとんどなく、いわゆる大部屋のレイアウトになっている。空間を物理的に共有することによって、チーム間の風通しをよくして、自由な議論が活発化するしかけだ。各フロアは中二階的なスペースを組み合わせたスキップフロア構造でつながれている。薬の効果を確かめるための「蚊飼育室」まである。 クリーム剤から始まった「ムヒ」シリーズだが、ドラッグストアの売り場では液剤の「液体ムヒS2a」が目立つ。今やクリーム剤を抜いて、かゆみ止め市場の売れ筋No.1に育った。しかし、液剤では後発だっただけに「最初は苦戦を強いられた」(小嶋氏)。 「ムヒ」シリーズが参入する前の液剤市場では、興和の「ウナコーワ」と金冠堂の「キンカン」という2ブランドが強かった。今では両ブランドを抑えて、「液体ムヒS2a」が液剤のトップシェアを占めるようになっている。 1971年に最初の液剤「ムヒL」(既に販売終了)を発売した。クリーム剤で培った知名度や信頼感を追い風に売り上げを徐々に伸ばしていったが、クリーム剤の圧倒的な売り上げ規模には追いつかず、「『液剤はもうからない』という声が社内でしばしば勢いづいた」(小嶋氏)。 ただ、スポンジヘッドの液剤には「手が汚れない」「塗った瞬間の気持ちよさ」などのメリットがあり、伸びしろが大きかった。クリーム剤の「ムヒS」には含まれていない、炎症を抑えるステロイド成分を配合するといった改良を重ねて、着実に売り上げを伸ばしていった。 売り場では液剤が主役的な存在になったが、クリーム剤には長年のファンが多い。「好みが分かれるところがあり、使用感や症状に応じて使い分けられている」(小嶋氏)ようだ。 インバウンド消費が盛り上がった2015年以降、訪日客が競うように買い求めた、日本製の医薬品類は「神薬」と呼ばれた。「ムヒ」シリーズも名前が挙がった。現地での人気の高さを受けて、台湾には「ムヒ」シリーズが輸出されている。漢字(繁体字)の表記は語源そのままの「無比」だ。 最初はクリーム剤から始まった「ムヒ」シリーズだが、今では液剤、ポケットサイズ、子ども向け、貼るタイプなどにバリエーションが広がった。虫刺され以外のかゆみ止め、肌ケアなどのトラブルに対応したラインアップも幅広い。後編では「肌を治すチカラ」のスローガンを掲げ、多様な製品を生み出し続ける池田模範堂の取り組みを掘り下げる。