乳がん、卵巣がんの血縁者がいる場合、どうする?二人の「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)」の女性の選択【更年期女性の医療知識アップデート講座】
◆費用負担が大きい!「がん発症前は全額自由診療」を、なんとかしてほしい! 由香さんは、HBOCとわかったものの、がんを発症していない人にとって最も大変なのは、費用負担だと話す。 「HBOCと診断されても、がん未発症の場合、保険適用外であり検査費用の負担が大きい点は、なんとかならないかと思います。 がんになるリスクが高い遺伝性のがんの人には、早期発見して命を助けるために、がんになる前の予防的な検査や治療は、保険適用にしてほしい。きちんとしたサーベイランスを受け続けることが、自身の命を守るためにとても大切です。それがあれば、姉も叔母も亡くならずにすんだと思うのです」 由香さんが受けていた造影乳房MRI検査は、自由診療のため施設によって異なるが、1回3万~5万円の費用がかかる。そのほかの検査も診察もすべて自由診療だ。 「また、造影乳房MRI検査やその後のMRIガイド下生検を実施している医療施設がまだ少ないことも大変でした。 私のように首都圏でなく、対応できる医療施設がない地域に住んでいると検査費用に合わせて交通費や宿泊費がかかり、さらに大きな負担になります。私の周りにも血縁者に乳がんが多く、遺伝学的検査を受けたいという人もいるのですが、住んでいる地域に受けられる専門外来がまだなく、一歩踏み出せずにいる状態です。 どの地域に住んでいても望む医療が受けられるために、地方であっても造影乳房MRI検査やMRIガイド下生検を受けられる環境ができたらと。せめて、円滑に医療施設を紹介してくれるシステムだけでも整えてほしいと思います」 現在は、がんを発症した人は、一定の条件はあるものの、保険適用となっている。しかし今も、がんを発症していない由香さんのような方は、遺伝カウンセリング、遺伝学的検査、サーベイランス、がん発症前の治療など、すべて自由診療で大きな負担になっている。 由香さんは来年には、卵巣の予防的切除治療を行うつもりだ。HBOCで乳がんを発症したため、保険適用で行えることになったことが大きいと話す。 ******************** 日本では乳がんも卵巣がんも年々増加傾向で、9人に1人が乳がん、65人に1人が卵巣がんにかかる時代だ。血縁者にこれらのがんにかかった方がいる人も稀ではない。私たちにとって身近になりつつある、遺伝性や家族性の乳がん卵巣がんについて、検査法や保険適用など、知っておきたい情報を次回、専門の医師に取材してお伝えする。
取材・原文/増田美加 1962年生まれ。女性医療ジャーナリスト。約35年にわたり女性の医療、ヘルスケアを取材。自身が乳がんに罹患してからは、がん啓発活動を積極的に行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』ほか。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員 イラスト/かくたりかこ