乳がん、卵巣がんの血縁者がいる場合、どうする?二人の「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)」の女性の選択【更年期女性の医療知識アップデート講座】
◆三姉妹とも乳がんに。検査を妹からすすめられて 恵美さんの母、叔母、妹(次女)が乳がんにかかっており、そのうち上の妹さんは2002年に若くして亡くなっている。恵美さんは、「なぜ、うちには乳がんが多いのだろう?」と大きな不安を感じていた。しかし、当時は遺伝性乳がんの情報はほとんどなく、アンジェリーナ・ジョリーさんがHBOCを公表したのは、その11年後、2013年のことだ。 変化が訪れたのは、亡くなった妹(次女)さんが乳がんを発症してからちょうど10年たった2012年。 「末の妹(三女・罹患年齢36歳)が乳がんになり、遺伝カウンセリングをすすめられ、遺伝学的検査を受けた結果、BRCA2の遺伝子に変化があるHBOCと判明しました。 妹から私も遺伝カウンセリングを受けるようにすすめられましたが、最初は拒否。いきなり言われて怖いし、調べてどうするの? 恐怖心だけ持っても意味がないと思いました。HBOCで乳がん発症リスクが高い、とわかっても、乳がんにならなくてすむ特効薬があるのなら別ですが、いたずらに乳がんにかかるのを待つだけなら、受ける意味がないと思っていました」 妹さんとその主治医からの強い説得で、検査を受けてもしHBOCとわかれば、HBOC専用のサーベイランス(早期発見するための検査システム)があること、注意深く観察してもらえることを知って、検査に前向きになった。 「ただし、私はがんになっていないので、カウンセリングや遺伝学的検査は、すべて自由診療。とても高額でした。ちょうどそのとき、厚生労働省の臨床試験が実施されていて、それに参加すれば費用は安価でしたので、ようやく決断できました。 遺伝カウンセリングは重要でした。当時、乳がんのことばかり考え、怖がっていたのですが、卵巣がんのリスクも高いことを知り、さらに頭の中がパニックに…。廊下で頭を抱えて座っていたら、私の様子がおかしかったのでしょう。カウンセラーさんが追いかけてきてくれて、親身に相談に乗ってくれて。検査を決断したのは、そのことが大きかったと思います」 ◆妹と同じBRCA2の遺伝性乳がん卵巣がんと判明して… 遺伝学的検査の結果、妹さんと同じBRCA2遺伝子に変化のあるHBOC であることがわかった。「家族に多発していた乳がんの原因がわかり、上の妹が亡くなった理由も含めて、今までの家族で起こったがんの経緯が腑に落ちたのを覚えています」と恵美さん。 HBOCの結果を受けて、乳がん未発症のまま、2013年からサーベイランスをスタート。定期的に、乳腺外科でマンモグラフィ、超音波(エコー)、婦人科での卵巣チェックを行って、特に異常なく経過していた。 変化は2016年。ちょうどこのとき行われていた、HBOCのMRI検査の有用性を検討する臨床試験で、造影乳房MRI検査を受けた恵美さん。同日に受けたマンモグラフィ、超音波では異常なしだったが、造影乳房MRI検査で早期の乳がんが見つかった。 (造影乳房MRIとは、造影剤を点滴で入れて乳房のMRI撮影をする検査のこと。当時は自費だったが、現在この検査は、HBOCでがんを発症している人には、保険適用になっている) 超早期だったこともあり、病変と思われる箇所が本当にがんかどうかを含め、担当医師から経過観察(様子を見ること)をすすめられたが、恵美さん自身が強く希望して、病理検査を要望。そして、乳がんと確定診断が出た。 「このときは不思議と不安やショックはなく、私も医師も万全を尽くして、早期発見できた安堵感すらありました」