乳がん、卵巣がんの血縁者がいる場合、どうする?二人の「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)」の女性の選択【更年期女性の医療知識アップデート講座】
姉が乳がんで亡くなり、がん発症前に遺伝学的検査を希望。がんと闘う準備をするために
◆鈴木由香さん(仮名) 39歳 家族背景/父、母、姉 《家族の乳がん卵巣がん発症時期》 2004年 母 (47歳で卵巣がん罹患) 現在67歳 今年、検査をしてBRCA1とわかる 2004年 叔母(母の姉) (52~53歳で卵巣がん罹患) 亡くなられた 2014年 姉 (33歳で乳がん罹患) 亡くなられた(当時、甥は3歳) 2022年 由香さん (37歳で乳がんと判明) 現在39歳 ◆乳がんで亡くなった姉のすすめで受けた検査 2014年、由香さんのお姉さんが乳がんを発症。姉の付き添いで初めて大学のブレストセンターに行き受診に立ち会ったところ、医師からHBOCの可能性が高いと告げられた。母と叔母が卵巣がん、姉が乳がんを発症していたため、だった。 「当時、アンジェリーナ・ジョリーさんのニュースが大きく取り上げられていて、聞いたことはあったものの、まさか自分にもその可能性があるとは思っておらず、驚きと同時に不安が頭の中で渦巻いていました。医師から遺伝学的検査をすすめられたものの、即答できず、ずいぶん悩みました」と由香さん。 しかし、先に検査を受けたお姉さんがBRCA1遺伝子に変化のあるHBOCであることがわかったことから、由香さんもはっきりさせなくてはならないと検査を決断した。 「もし私がHBOCであったとしても、自分の体質を知り、正しく検査を受ければ怖いことばかりではないのではと考えたからです」 由香さんが遺伝学的検査を受けたのは2015年のこと。その後、残念ながらお姉さんは33歳で当時3歳の息子を遺して亡くなっている。若くして発症し、進行が早く悪性度が高いのもHBOCの特徴でもある。 ◆姉と同じBRCA1のHBOCとわかり… 由香さんは、姉と同じBRCA1 に遺伝子変化があるHBOCと判明。乳がん発症前に予防的に乳房を切除するリスク低減手術の選択肢もあったが、保険適用もなく、自由診療で高額だったため、年1回のサーベイランスを受ける道を選んだ。専門的にフォローできる病院が由香さんの住む地域にはなく、地元で検査を受けることができず、東京に通うことを決断。 検査を受け続けて7年目の2022年。造影乳房MRI検査で1cmに満たない腫瘍が見つかった。 「結果を聞いたときは、ついにこのときが来たかという気持ちや今後への不安など、いろいろな気持ちで頭の中がぐちゃぐちゃになったことを今もよく覚えています」 由香さんは、乳腺密度が高い高濃度乳房であったため、マンモグラフィでははっきりと腫瘍が写らない。また超音波検査でもよくわからない腫瘍で、造影乳房MRIだけで見つかった腫瘍だった。そのため、MRIガイド下生検(MRIで病変を確認しながら組織を取る検査)で精密検査を受けた。 その結果、左乳房に悪性度の高い乳がんがあることがわかった。入院は約10日間。早期発見でリンパ節への転移もなかったので、手術でがんを取り除くだけで、抗がん剤などの追加治療の必要もなかった。現在は、半年に1回の検査と診察を受けるだけで過ごしている。 「もしマンモグラフィと超音波検査だけで、3カ月後の経過観察にしていたら、抗がん剤が必要ながんになっていたかもしれません。造影乳房MRI検査を受けておいてよかった」 早期発見できれば、治療選択の幅が広がり、体にも心にも優しい治療につながり、患者にとってのメリットは大きい。由香さんには、がんだけを取って乳房を残す選択肢もあったが、今後の再発リスクを最小限に抑えたいという希望のもと、左側の乳房全摘に加えて、乳がんを発症していない右側乳房も予防的に切除するリスク低減手術を受ける選択をした。 「乳房を部分的に残したら、放射線や抗がん剤などの追加治療が必要になります。乳房全摘すれば、手術だけの治療で終えられます」