90歳医師が考える超高齢者のがんとの向き合い方「なるようになるだろうという心境」
がんの専門医が治療できないとの診断を下すときは、患者さんが手術に耐えられない身体状況だったり、抗がん剤などの薬物治療に伴う副作用のリスクがあったりすることを医学的に判断するものだ。しかし、治療できるとなっても、治療するメリット・デメリットをよくよく考えて決めるのは患者さん本人だ。手術であれば術後合併症などのリスクがあり、その影響は超高齢者になれば大きくなる。また、入院中ベッドに寝たきりでいる時間が長いと、「廃用症候群」という心身の機能低下を引き起こす。がんは治ったけれど、すっかり虚弱になってしまったという高齢患者さんの例は読者も耳にしたことがあるだろう。 たとえ治療することで寿命が延びるとしても、治療の後遺症で生活に支障が出たり、やりたいことができなくなったりしてしまうとしたらどうだろうか。それはもう個人の「生き方」や人生哲学に関するところなので、正解はない。ただ、治療のベネフィット(利益)とリスクを天秤にかけて判断するのが一般的だが、超高齢者の場合はリスクが想定以上に大きいとみておくのがいいだろう。 少なくとも、「治療ができますよ」というがん専門医に対して、「はい、お任せします」ではいけない。本当に治療するのがいいのか、自分の「生き方」と照らし合わせて考えてみるのがいいだろう。
※『90歳現役医師が実践する ほったらかし快老術』(朝日新書)から一部抜粋 ≪著者プロフィール≫ 折茂肇(おりも・はじめ) 公益財団法人骨粗鬆症財団理事長、東京都健康長寿医療センター名誉院長。1935年1月生まれ。東京大学医学部卒業後、86年東大医学部老年病学教室教授に就任。老年医学、とくにカルシウム代謝や骨粗鬆症を専門に研究と教育に携わり、日本老年医学会理事長(95~2001年)も務めた。東大退官後は、東京都老人医療センター院長や健康科学大学学長を務め、現在は医師として高齢者施設に週4日勤務する。
折茂肇