【第4回】最大多数の最大幸福を目指す「功利主義」……“最大多数”に人間以外の生き物は含めるべき?(後編)
人気作家のさくら剛さんが、世の中の「主義・思想」をユーモアたっぷりに、そして皮肉たっぷりにご紹介する哲学・超入門エッセイ。価値観が多様化する現代、人生というダンジョンに地図もなく放り出された私たちは、これからどう生きるべきか? 第3回に引き続き、第4回でも「功利主義」について取り上げます。 *本記事はさくら剛氏の著書『君たちはどの主義で生きるか ~バカバカしい例え話でめぐる世の中の主義・思想』(ウェッジ)の一部を抜粋したものです。 人の幸福すなわち「快」を、「強度(どれだけ強いか)」「持続性(どれだけ続くか)」「確実性(確実に手に入るか)」「遠近性(すぐに手に入るか)」「多産性(他の快も生み出すか)」「純粋性(純粋な快なのか、不快も含まれているのか)」「適用範囲(どれだけ広く行き渡るか)」の7つの項目で採点して数値で表す快楽計算。これを使い、みんなの快の合計点がもっとも高くなるように行動しようというのが、功利主義、「最大多数の最大幸福」の考え方です。休日に「1日中家でゴロゴロして英気を養う」のがいいのか、「午前は掃除をして午後はジムに行く」のがいいのか「日帰りで鎌倉観光に出かける」のがいいのか、それぞれ点数をつけてみて最高値のプランを選ぶ。これが功利主義です。 もっとも、ケンブリッジ大学の研究によると、人間は1日のうちに小さなものから大きなものまでトータルで35000回の選択をしているそうです。その35000回すべてで各選択肢の「強度」「持続性」「確実性」「遠近性」(以下略)の7つの項目を計算し最適な選択をする、という完璧功利主義を実践していたら、1日分の選択が終わる頃には世間では20年くらい経っていた、なんてことにもなりかねないので(4日分の計算を終える頃に人生も終わります)、あくまで快楽計算は要所に絞って発動させることが大事です。 功利主義は個人にとっても有用ですが、集団の方向性を決定する時にもっとも効果を発揮する思想であるとも言えます。 例えば、飛行機って、時々落ちますよね? 世界では過去に飛行機が一度も墜落しなかった年はないし、おそらく今後も何十年、もしかしたら何百年と、飛行機が運用され続ける限り毎年どこかで飛行機は落ち、一定数の人が亡くなることでしょう。 でも、飛行機は廃止されません。もし今年いっぱいで飛行機を廃止すれば、来年飛行機事故で死ぬはずの何百人もの命が確実に助かるとわかっているのに廃止されません。それは、「来年飛行機を使って無事に移動できる人たちが飛行機を使ったことで得られる快の総合計値」が、「来年飛行機事故で死ぬであろう人たちやその遺族の苦しみの不快の総合計値」を上回っているからです。 ゴミ処分場や基地や原発などが、いくら近隣住民が反対しようと補償や強制執行を経て結局は作られるのも、政治というものが功利主義的な考え方で運営されているからです。
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