日本の技能実習制度に一定の評価も:OECDの労働移民政策報告書
手数料、転籍制限、失踪
もちろん、これまで技能実習制度について指摘されてきた問題点についても本報告書は言及している。技能実習生が負担する手数料については、依然として課題であるとしつつ、それは日本の技能実習制度に固有の問題ではないことを指摘している。なぜなら、技能水準の低い労働者の国際移住においては、出身国での膨大な求職希望者と、目的国での限られた求人数との不均衡に起因する情報の非対称性を利用し、仲介者が時に過大な手数料をとるというのは極めて一般的なリスクであるためである。 報告書ではこれまでの大規模な制度改正により、(技能実習制度固有の)重要な問題はほとんど解決されたとしている。 技能実習生の実習期間中の転籍制限については、雇用主の支払った初期投資や日本での雇用の最初の段階で一貫した支援やオリエンテーションを提供する必要性を考慮すると、一定期間の制限は正当化されうるとしている。その一方で、諸外国の例に見られるように、一定期間や一定の条件の下で転籍を認めることは、雇用主の法令順守(コンプライアンス)の向上につながりうることを指摘している。 その一方で、報告書は日本の技能実習制度におけるコンプライアンスのレベルは国際的に見て高いとしている。例えば、本報告書では日本の技能実習生の失踪率は約2%であり、その他の法令違反率を併せても4%未満にとどまる。これは韓国の雇用許可制の法令違反率の18.9%、イスラエルの17.5%、アメリカの季節労働者等の受入れにおける特定国からの受入れの除外基準である失踪率10%と比較しても、非常に低いとしている。 その結果、報告書は米国務省の「人身取引報告書」において、技能実習制度における人身取引の可能性を指摘していることに対して、「残念ながら、この評価は古く、主観的なものである(Unfortunately, this assessment is dated and subjective)」とし、その妥当性に疑問を呈している。こういった視点は、同報告書や、それにもとづく国連の勧告にもっぱら依拠した議論を進めて来たこれまでの日本の状況に対して、一石を投じるものといえる。