「出席停止措置」はなぜ取りにくい いじめ加害者に必要とされる対応とは
「(どうして)被害者のほうに逃げさせるんだろう。病んでたり、迷惑だったり、恥ずかしくて問題があるのは加害者のほうなのに」 1月から放送しているドラマ『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)で菅田将暉演じる久能整がいじめについて語ったこのセリフが反響を呼んでいる。実際、いじめの被害者が転校したり不登校になったりするケースは多い。いじめに関する痛ましい事件も毎年起きている。 一方、加害者はといえば、学校教育法で「出席停止」が認められているものの、この措置が取られることは現在ほぼない。いじめ加害者に対しては、どう向き合ったらよいのか。現場の教師やスクールカウンセラー、教育学の専門家に取材した。(文:佐藤智/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
加害者と被害者の「引き離し」が難しい学校現場の実情
「深刻ないじめへの発展を避けるには、被害者と加害者の引き離しが大事なことは理解しています。ただ、学校では加害者に対しても学ぶ権利を保証することが求められます。被害者と加害者双方の学びを保証するために、仲直りを促すことも少なくありません。学校現場では、こうした教育的観点で子どもに接するため、加害者へ出席停止を命じるなどの法的措置は行いにくいのです」 こう語るのは、神奈川県で小学校教諭を務める加藤陽美さん(40代、仮名)。東京都で中学校教諭を務める川浦浩人さん(30代、仮名)も出席停止措置を取ることの難しさを訴える。 「校長権限で出席停止にできるといっても、教育委員会に判断を仰ぎ、さらに加害者側の保護者にも理解を得なければならない。学校だけで判断できないことも多く、強い措置が取れないケースもあるんです」
いじめ加害者の保護者から理解を得られないことも少なくない。加藤さんは、「子どものケンカに大人は口出しすべきではない」と言われたこともある。 昼間は自宅に大人がいない家庭が多いことも、出席停止の措置を取りにくくしている。子どもが小さい場合は家にひとりで残しておくわけにはいかないし、学齢が上がると街に出て学校の目が届かないところで非行につながる危険性も出てくる。 「家庭の理解や協力を得にくい点は、学校において大きな課題となっています」と、東京都で小学校教諭を務める瀬山洋子さん(30代、仮名)は眉をひそめる。学校は、加害者へ教育的視点で接しつつ被害者保護もする必要に迫られ、結果的に同じ教室で加害者と被害者が学び続けることもある。 例えば、2020年度の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」では、全国の公立中学校の教育課題に関わる出席停止件数はわずか4件。いじめ加害を理由とした出席停止例は1件のみ。なお公立小学校では、同年度のいじめ加害を理由とした出席停止例はなく、1997年度以降の24年間でもわずか計3件にとどまる。