「出席停止措置」はなぜ取りにくい いじめ加害者に必要とされる対応とは
「例えば、廊下で子ども同士が羽交い締めしている姿を見たとします。先生によっては、『はやく教室に入りなさい』や『ほら、チャイムが鳴っているわよ!』といった声かけで終わってしまうことがある。手は止まりますが、その行為自体をとがめられたわけではないので、黙認されたという側面も生じます」 「いじめなの?」と問いかけると、加害者にとっては「いじめのつもりはなかったけれど、自分がしていることはいじめかもしれない」と気づくきっかけになる。もし、されている側が「いじめ」と答えた場合は、法的にはいじめに該当する。 もちろん、苦痛を受けたと強く主張する子どもが被害者と判断されないように、いじめ問題の実態解明には慎重な調査が必要だが、いじめ防止対策推進法ではいじめは一定の関係にある児童や生徒の行為として「心身の苦痛を感じているもの」と定義されている。 「法律ではいじめになるね」と返すことは、抑止効果につながる。たとえ被害者側が加害者の目を気にして「大丈夫です」と返答したとしても、半田さんは「大丈夫じゃなさそうだよね?」と掘り下げていくという。 「こうした声かけは保護者や地域の人などにもできます。校外で見かけて、いじめかどうか判断に迷うときはこうした介入の方法もあるでしょう」
専門家の配置、行政の関わり方など教員だけで抱え込まない仕組みの構築
いじめへの明確な処置がないことは、加害者にとっても不幸になりうると前出の内田さんは言う。 「加害者に専門的な心のサポートをしたほうがよいケースもあるでしょう。指導を与えるだけでなく、支援体制が整っていないことも問題なのです」 いじめ加害者に対してもカウンセリングする体制を整えたり、保護者間の折衝にはスクールロイヤー(学校で起こるトラブルなどを法的に解決する弁護士)が介入したりと、教員以外の専門家が関わっていくことも重要だ。 「専門家の配置も含めて、教育委員会が子どもの安全・安心を守るために積極的に介入する視点も重要です。また、『行政的アプローチ』も注目されます。学校内だけでいじめに取り組む段階から、自治体などが関わり、子どもたちを守るアプローチです。例えば大阪府寝屋川市では、市の危機管理部に監察課を設け、いじめの初期段階から関係者に関与し、早期解決を図る取り組みをスタートさせています」 寝屋川市では、聞き取り調査を行い、場合によっては加害者の出席停止やクラス替えなどを教育委員会と学校に勧告できることとしている。しかし、これまでは戦時下の軍国主義教育の反省などから「政治的中立」を重んじ、学校教育は首長から独立して基本方針や重要事項を決定する立場をとってきた。そのため、行政からの介入は「いじめへの問題だけではなく、学校教育の位置づけを考える大きな議題になる」と内田さんは語る。 いじめ加害者に対して、学校ではどのような対応が必要なのか、そして学校外からはどのようなアプローチができるのか。それぞれの役割を踏まえ、いじめ加害者に対する多様な指導や支援を検討していく段階にきているのかもしれない。