「元気だった息子を返して…」息子がタイで転落死 初の海外勤務での未経験業務、150時間の時間外労働で「労災認定」『ポジティブ日記』に記された苦悩 母親が悲痛な訴え「何とか毎日良いこと見つけて、生きのびようと」
毎年11月は、過労死防止の啓発月間と定められています。11月6日、東京都内で開催されたシンポジウムでは、「海外勤務での過労自殺」で息子を失った母親が登壇。悲痛な心境と、過労死のない社会への願いを語りました。 【画像を見る】亡くなった上田優貴さん
自殺前に月150時間の時間外労働か…赴任先のタイで未経験業務に従事、滞在期間も延長…労基署が「労災認定」
上田優貴さん(当時27)は、2018年に旧・日立造船(現在の社名はカナデビア)に入社。電気設備の担当者として、2021年1月にタイに赴任し、ごみ焼却発電プラントの建設プロジェクトに従事していましたが、同年4月末に自ら命を絶ちました。 初めての海外赴任だった優貴さんは当初、滞在期間を同年5月末までとされていましたが、日本出国後に、最長で7月末までになる旨を会社側から一方的に通知されました。 また、焼却炉に関する作業や、プラントの試運転でのトラブル対応など、多くの未経験業務を担うことを余儀なくされました。 会社側は労働時間を、現場とホテルを往復するバスの「現場発着時間」を軸として管理。それに基づけば、優貴さんの2021年3月と4月の時間外労働はいずれも70時間前後でした。しかし遺族の弁護団が、バスでの移動時間やホテルでの報告書作成の時間なども算入して計算したところ、同年3月中旬~4月中旬の1カ月間の時間外労働は、約150時間に及んでいました。 会社側の第三者委員会は、優貴さんの死亡について「自殺か事故のどちらなのかは認定できない」としたものの、大阪南労働基準監督署は、優貴さんが死亡直前に精神障害を発症したと認定。心理的負荷の強度が「強」だったとして、今年3月に「労働災害」と認定しました。
「何度呼びかけても目を開けてくれず眠ったままだった」遺族が悲痛な心境を語る
11月6日、東京都千代田区で開催された「過労死等防止対策推進シンポジウム」では、優貴さんの母親・上田直美さんが登壇。時に涙をこらえながら、現在の胸の内を語りました。 上田優貴さんの母親・上田直美さん 「息子は2021年1月20日からタイに赴任。『ゴールデンウイークが終わった頃には帰ってくる予定』と連絡があり、帰国を楽しみにしていました。その矢先、5月1日に会社から1本の電話がありました。『昨日、30日の14時ごろ、息子さんが現場で転落して亡くなりました』。私は言われている言葉の意味がわからず、何も考えられない状態でした」 「ゴールデンウイーク後に帰ってきた息子は、大学生の時のままの寝顔でした。よほど疲れたのでしょう。何度呼びかけても目を開けてくれず、眠ったままでした」 「息子のノートから、会社のシフト表以上に働いていたのではないかと思い、やっとの思いで、今お世話になっている弁護団の先生方にたどり着くことができました」 「会社側は手すりを乗り越えた様子が映っている防犯カメラの動画を持っていたにもかかわらず、『通常の転落事故として労災申請をしたい』と申し出てきました。息子に嘘をつくことは、親としてできるはずがありません」 「第三者委員会の調査報告書には、『自死によるものか、偶然の事故によるものかは認定ができなかった』と記載され、防犯カメラの動画が委員会へ未提出だったことが判明しました。遺族としては、許しがたい気持ちです」