「Art Fair Beppu 2024」開幕レポート。狙うアーティストの移住促進とマーケット創出
九州屈指の温泉地である大分・別府市で、2回目となるアートフェア「Art Fair Beppu 2024」が幕を開けた。会期は9月24日まで。 本フェアの主催は混浴温泉世界実行委員会。 別府では2009年から15年までトリエンナーレ形式の芸術祭「混浴温泉世界」が、16年から21年までは個展形式の芸術祭「in Beppu」を開催が開催されており、街全体で現代美術への理解が進んできた。一昨年度からは、半年ごとに1組のアーティストを招聘して4年間で8つの作品を制作するという新たなアートプロジェクト「 Alternative-State」もスタートさせるなど、現代美術へのコミットメントはますます高まりを見せている。 そうしたなかで、新たな試みとして昨年からスタートした本アートフェア。ギャラリー単位で参加する一般的なアートフェアの形式とは異なり、このフェアではアーティストが会場に常駐する。作家が来場者・コレクターとコミュニケーションがとれることが大きな特徴だ。 別府は制作や活動の拠点を求めて移住・滞在するアーティストが増えつつあり、更なる移住者の増加を目指している。本フェアは、そうした別府を拠点とするアーティストの活動を支援する一環であり、新たなアートマーケットを創出するため、25年の本開催に向けて地盤を固めている。 別府で長年アートプロジェクトを牽引してきた混浴温泉世界実行委員会総合プロデューサーの山出淳也は、「本フェアが呼び水となり、より多くのアーティストが移住してくれれば」と語る。 フェアの参加アーティストは前回の45組から64組へと出展者が増加を見せている。フェアディレクターを務めるNPO法人 BEPPU PROJECT代表理事の中村は、「前回はセールスの目標は達成できた。地元からもここで初めて作品を買うという方がいらっしゃり、手応えがあった」と振り返る。 今年の会場となるのは、別府国際観光港 旧フェリーさんふらわあ乗り場、BEPPU STUDIO 01、清島アパート。今年は現代アートから工芸まで、多様な表現で制作・発表する気鋭のアーティスト64組が別府に集まった。また中﨑透、西野達 、藤井光がゲストアーティストとして参加。なかでも藤井はこれがフェア初参加であり、2022年に東京都現代美術館で発表された日本の戦争絵画をめぐるインスタレーションを組み直した《日本の戦争美術 1946》や、今後の新たな展開を示唆する平面・立体作品を発表。大きな存在感を示した。 中村は今回の作家ラインナップについてこう語る。「最年少は17歳。主催側のそれぞれのスタッフが、若手を中心にお声がけさせていただいた。北海道から九州まで、多彩な64組から1000点以上の多様な作品が集まった」。作家は20~30代が8割で、ファーストコレクションとしても購入しやすいサイズ・価格が考慮されている。 アートフェアが数多く開催されるなか、本フェアは買い手と売り手の距離感の近さも大きな特徴だろう。初日にもアーティストに作品のコンセプトを訪ねる姿があちこちで見られるなど、混浴温泉世界実行委員会やBEPPU PROJECTがアートの地盤を固めてきた成果はこのフェアでも感じられる。 また大きな目的であるアーティストの移住促進のためにも、フェアは継続開催が求められる。同フェアは来年が本開催。どのような展開を見せるのか、注目したい。 参加作家:アグネス吉井 / 浅野 ひかり / anno lab、長野櫻子(anno lab) / 安部沙保里 / 有馬晋平 / 市村優奈 / 牛嶋太洋 / 𡧃野湧 / おおつきゆき / 大平由香理 / 大脇僚介 / 沖田 愛有美 / オレクトロニカ / KAIMON TEI / 勝正光 / 加藤立 / 久保勝大 / 桑原ひな乃 / 齋藤夏海 / 迫鉄平 / 佐藤壮馬 / サルチョード・イル / システム・オブ・カルチャー / 柴田まお / 新宅和音 / 杉谷一考 / 関川航平 / 高梨麻梨香 / 高屋永遠 / 武内もも / 田中藍衣 / チェン・ウェイチェン / 東京ディスティニーランド / 鳥彦 / 永井幸太朗 / 西村昂祐 / ぬQ / 野々上聡人 / はらだひまわり / valo / 東智恵 / 平井亮汰 / 福岡佑梨 / 古屋湖都美 / 細川京佳 / 堀川すなお / 堀田千尋 / 前谷開 / 三枝 愛 / 水田雅也 / 宮﨑勇次郎 / 向山晃大 / 村田峰紀 / 室井悠輔 / 森川彩夏 / 森下明音 / 八木萌 / 山口知咲 / YUSHU / YORUDA / 渡邊李佳
文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)