「孤独死確定」と陰口を叩かれるおばあさんのひそかな趣味はスイーツづくり。しかし女装少年にその秘密をしられてしまい…。スイーツでつながる年の差60歳の友情物語【書評】
年代も性別も異なるふたりが、スイーツづくりという共通の趣味を通して友情を深めていく物語『お茶の間スイーツガーデン』(佐倉イサミ/KADOKAWA)。 【漫画】本編を読む
孤独に生きる女性、瀧口サト。そんな彼女がこっそり楽しんでいる趣味がスイーツづくりだ。サトはある日、近所に住む中学生・矢北宗介の女装趣味を知ってしまう。 女装趣味をバラされたくない宗介とスイーツづくりの趣味を知られたくないサト。「女装姿でカフェに入る勇気はまだないから、瀧口さんがつくってよ」とねだる宗介に気圧され、共にスイーツづくりを楽しむ仲に…。 家庭環境のせいで自分の素直な気持ちを押し殺し、生きてきたサト。気づけば70歳オーバーだ。ふとやりたかったことを振り返ってみても「どれもこれも手遅れ」と自虐してしまう。一方、宗介は近所でも有名な優等生。周囲から期待される「いい子」を演じているうちに「そうではない自分」を外に出せず苦しんでいた。 サトはスイーツづくりを通して、自分の好きなことに没頭する喜びを初めて知る。一方宗介は、女装をすることで誰からも注目されることのない新しい自分になれる開放感を知った。そして、スイーツ好きだと言っても好奇の目で見られない「女装した自分」にますますのめり込んでいくのだった。 自分にとって未知の存在である「中学生男子・宗介」の一挙手一投足に、サトはおっかなさを感じていた。しかし、失敗を成功に変えてしまう彼の器用さや、思ったことを素直に表現する宗介の姿勢に触れ、サトに気持ちの変化が芽生えていく。 宗介もまた、女装の趣味やスイーツづくりを受け入れてくれたサトのおかげで、誰かと楽しさを共有する充実感を知っていくのだった。 ふたりの変化は、誰にも言えないこじらせた思いをもった読者の心につよく響く。 過去の選択を後悔しているわけではないけれど、ふと、もっと違う道もあったのではないかと振り返ってしまう。 そんな時があったとしても、この物語はいつだって気持ちひとつで人生が変わること、そして勇気をもって起こした行動が、ドミノ倒しのようにつながって遠く未来まで影響を及ぼすことを教えてくれるのだ。 文=ネゴト / ニャム