「膀胱全摘を決意できず、2年間遠回りした」小倉智昭が自身のがん経験を赤裸々に発信する理由
2人に1人ががんになる時代だからこそ、教育が必要
ーー小倉さんは、さまざまな場所でご自身のがんについてお話しされていますが、包み隠さず発信をしようと思った理由はあるのでしょうか? 小倉智昭: 今まで知らなかったことに気づくことって大切だと思うんです。だから、皆さんのお役に立ちたくて「がんになったらこうですよ」「膀胱がんになるとこんなことがありますよ」と包み隠さず話すようにしています。周りの人からは「タレントなんだから、あまり言わないほうが良いんじゃないの?」と言われることもあるんですけどね。 特に尿漏れの話は、僕が歩いているのを見たら「あいつ、おしっこ漏れているんだよね」と思う人もいるわけじゃないですか。ただ、こういった話を声高に発信する人が今までいなかったので、誰かの役に立つならばと思っています。 ちょっと変な話をしますが、僕は手術の時に勃起神経と精管を切断しました。でも男性ホルモンはあるので、いまだに性欲はあるんですね。勃起もしないし、精子も出ないんだから満足感は得られないだろうと思っていました。ところがいろいろと試してみたら、不思議とちゃんとそういう気持ちになるんです。先生自身も経験していないし、そんな話をする人は他にいないから僕の話は貴重だそうです。先生からは「小倉さんが発信するようになってから、膀胱を全摘したいという人が増えたんですよ」と言われます。 ーーがん治療や、がん患者への理解が深まるためにどんなことが必要だと思いますか? 小倉智昭: がんは、保険が適用される一般的な健康診断で簡単に見つけられるものではありません。だから、がんの早期発見につながるように、人間ドックや胃カメラ、脳のMRIやCTがもっと低費用でできるようになればいいなと思いますね。 また、かかりつけ医を持つことはすごく良いと思います。僕も初めは、かかりつけ医に相談に行きました。いつもお世話になっているので、腹を割って話すことができるし、先生も僕の性格や家族の様子をわかっているから、忌憚(きたん)のない意見を言ってくれるんですよ。かかりつけ医の存在は大きかったですね。 2人に1人ががんになると言われている時代にもかかわらず、自分や周りの人が実際にがんにならないとがんへの関心が持てない。だからこそ、小学校や中学校の保健の授業などでも、もっと病気のことを教育すべきだと思います。例えば、「膀胱がんに最もなりやすいのは喫煙者」だなんて知らないでしょ? 喫煙が肺がんのリスクを高めることは知られていても、膀胱がんの発症リスクがあることはあまり知られていないですからね。 僕はヘビースモーカーでしたから、膀胱がんになったのは喫煙が原因だった部分も絶対にあると思う。糖尿病にもかかわらず、自分の快楽のために飲み食いもやめなかった。それが結果的に余病にもつながっているんです。健康で長生きするために、病気のことを学ぶことはすごく大切だと思います。当事者だけが考えるのではなく、一人ひとりが考えることが重要ですから、僕の発信が、ほんの1ミリでもお役に立てばと思っています。 ----- 小倉智昭 1947年、秋田県生まれ。獨協大学卒業後、東京12チャンネル(現・テレビ東京)にアナウンサーとして入社。局アナとして活動後、1976年にフリーアナウンサーに。「世界まるごとHOWマッチ」(TBS)の独特のナレーションで注目され、以後、テレビやラジオで多数活躍。1999年4月~2021年3月まで「とくダネ!」(フジテレビ)のメインキャスターを務めた。 文:清永優花子 (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました)