碓氷峠で始まった“夜の廃線ウォーク”、プロジェクションマッピングも駆使し新たなナイトタイムエコノミー創出へ
■ 終了後、温泉で疲れを癒やして帰ることも 実際、5月の大型連休期間中は予約が大変多く満席となり、1日で計120人以上が参加した。開始時刻が夕方から設定されているので、車でその日のうちに首都圏に帰ることも可能だ。ファミリーやカップルも気軽に参加できるコンテンツだろう。発着地点の「峠の湯」は天然温泉で、時間によっては終了後に温泉で体を癒して帰ることもできる。 また、当初の想定よりも群馬県内からの参加者が多く、このイベントで国の重要文化財に指定された鉄道遺産が地元にあることに初めて気づいた人もいたようだ。“シビックプライド”の観点からも望ましいスタートと言えよう。 ■ 鉄道廃線のインフラそのものをフルに活用 この企画に立ち上げから携わり、自身ガイドも務める安中市観光機構の上原将太氏によると、これまで「廃線ウォーク」に参加していなかった参加者が目立つことから、新たな需要に今後への手応えを感じているという。 当イベント開催にあたってのさまざまな準備も上原氏を中心に進められた。特筆すべきはプロジェクションマッピングの映写に際して、廃線沿いの樹木や、トンネル内の側壁、築堤、法面など、鉄道廃線のインフラそのものをフルに活用した点だ。 近い将来、周辺温泉(磯部温泉など)からの夕食後のオプショナルツアーとして選択肢に上がるようになれば、滞在泊数の延長という宿泊施設にとって望ましい展開にもつながるだろう。
■ 寂しくなった「地方の夜」をどう変えるか 一点だけ難を言うならば、発着点が横川駅から約4km離れた「峠の湯」であるため、鉄道ではなく車利用を前提にしていることだ。磯部温泉などから往復の送迎とセットになった商品を用意できれば、それは湯の川温泉(北海道函館市)発着の函館山夜景観賞のように、旅先でシームレスに非日常な時間を楽しめる“ナイトタイムエコノミー”の妙味にもなるだろう(なお、日中の「廃線ウォーク」の場合は「峠の湯」から「碓氷鉄道文化むら」のトロッコ列車ラインの利用が有料で可能)。 安中市観光機構は磯部温泉の宿泊施設など地元の観光関係者との信頼関係も強く、観光地域づくり法人(DMO)でもある同機構をプラットフォームにした地域の観光消費の拡大につながる。 全国的に人口が減少の一途をたどり、地方では夜の風景がどこも寂しい。だが、新たな仕掛けにより碓氷峠の鉄道遺構や峠の自然が醸し出す魅力に気づき、日中の「廃線ウォーク」にも新たな参加者が増える好循環が生まれれば、物販のチャンスも増えるだろう。それは、観光消費額の拡大だけではなく、地域の新たな雇用創出の実現にもつながり、鉄道廃線を活用した観光(ツーリズム)の新たなカタチになる。 「観光DX」というワードを耳にするようになった昨今、デジタルの力を活かした地元のクリエイティブな発想が、碓氷峠“ならでは”の魅力を新たに開花させようとしている。 ※訪問時の注意事項 トンネルなど廃線は現地事情により入れない場合もあります。また、現地では主催者の案内に従っていただき、立入禁止区域には入らないようにご注意ください。
花田 欣也