1mm単位でコンセプトを追求 アトリエ小倉染芸の考える、東京手描友禅の魅力とは?
代表作の訪問着 きっかけは「東京を表現したい」という想い
ー現在は一人の東京手描友禅の職人として活動されているのですね。 そうですね。家に入ってから5年ほどは、いわゆる下積み時代でずっと草花や動物のスケッチをしていました。友禅は写実的に物を描けなければ始まらないので。 ただその5年間はしんどかったですね。 同世代の職人は高校を出てすぐに修行を始めるので、その遅れをどうにか取り戻したくて。でも私は基礎が身についていなかったので、スケッチから始めなければいけなかった。 苦しかったですね。 ー現在に至るまで多くの作品を制作されてきたかと思います。もっとも印象に残っている作品についてお伺いしたいです。 2021年にイメージやデザインの原案を作り、昨年制作、完成した訪問着です。 2021年は東京オリピックがあった年で、その際、東京で活動する一人の人間として「東京都とは?」ということをずっと考えていました。 友禅において東京は産地のひとつです。ではその産地の特徴はなんなのか? 江戸で友禅が栄えたころ、同じ産地である京都や金沢との交流は現代よりもはるかに難しいものでした。そうであるにも関わらず江戸の文化は、他の地域にも大きな影響を与えています。 そうやって醸成されていった江戸らしさとはいったいなんなのだろうかと考えました。 ただ江戸が東京となった現代では、良くも悪くも個性がないといわれています。さまざまな地方から人が集まり、東京出身・東京育ちという方は意外と少ないからです。かつて江戸時代に醸成された文化は、限りなく薄まっているといっても過言ではないでしょう。 でも私はこの状態こそが、現代の東京らしさなのだと考えました。かつてあった文化が土台となり、地域・国を超えた多様な文化が混ざりあい、一つの形となっている。 そう考えたとき、そのコンセプトを表現した自身の代表作を作りたいと思ったのです。 この訪問着の制作期間は5ヶ月ほどでした。 全体にはグレーを5色、朱を2色、そして茶を2色用いて、落ち着いていながら寂しさのない、複雑な色味を作りました。 また模様には、着物によく用いられる日本ならではの雪輪紋様と、かつてヨーロッパに旅行に行った際にスケッチしたタイルの柄を参考にした模様を、それぞれ用いています。 モダンでありつつもシンプルな「粋」を表現した訪問着にできたのではないかと思っています。