失った休日を取り戻すために作るたこ焼き/むぎが氏とワンルーム酒場(8)休日の夕方から始めるひとりたこ焼きパーティ
飲むと言ったらわが家一択……!カクテルコンペティションにて特別賞を受賞し、バーテンダーの経験もあるYouTuberむぎが氏。YouTubeでは連日、晩酌の様子を配信し、「朴訥(ぼくとつ)とした語り口に癒やされる」「手際のいい調理は見ていて気持ちいい」「画面からお酒の味が伝わってくる」など話題沸騰中。お酒を愛し、お酒に愛されたといっても過言ではない彼女による、ワンルームで楽しむ晩酌エッセイ連載。連載第8回は、だらだら惰性で過ごしてしまった休みを取り返す「ひとりたこ焼きパーティ」の様子をお届け! 生姜のピリッとした風味と甘酢が美味しいガリ酎ハイ ■休日の夕方から始めるひとりたこ焼きパーティ 土曜日の朝、ハッッ!と悪夢から目が覚める。最近、前日の夜に深酒をするとなぜか悪夢を見てしまう。夢の内容は忘れたけど、どこか心に泥が付いたような、もわもわと気持ちのよい目覚めではない。 昨日の夜は(も)調子に乗って飲みすぎた。ベッドから離れたくない気持ちがあるけど、喉がカラカラだ。喉の渇きには耐えられない。意を決して起き上がると、ズボンのスウェットを前後逆に着てることに気が付いた。酔っ払って寝て、次の日起きると、ドライヤーが玄関に置いてあったり、パジャマを前後に着ていたりとおかしなことが多々ある。この前は髪の毛がぬるぬるしていて、多分コンディショナーを流さないでそのまま寝ていた。ベロベロに酔ってても、ちゃんとコンディショナーで髪の毛のキューティクルを守ってる自分の女子力にあっぱれだ。 冷蔵庫から冷えた水を出して、一気に流し込む。干からびた体に湿いが与えられ、全身が蘇る……。「水ってこんなにおいしかったんだ」と二日酔いのたびに思う。昔「ドリルを売るには穴を売れ」みたいな本があったけど、それと同じように「水を売るには二日酔いを見つけろ」みたいに二日酔いの人は高額で水を買ってくれそう。私なら周りにコンビニ・自販機がなく、目の前にしか水がなかったら1000円かけてでも買う。いや、その状況だったら5000円くらいに値上げされちゃうかも。きゃー。そんなくだらないことを考えながら起き上がったついでにトイレに行って、ベッドに帰宅。自分の体温で暖かくなった布団の温もりを感じながら、おやすみなさい。 ……と言っても、なかなか寝付けなかったのでスマホで先々月に加入したNetflixでも鑑賞しよう。極悪女王が観たくて契約したのだが、この出会いは私の怠惰な生活をもっと怠惰なものへ導いてくれた。私はなるべくアニメとかドラマは一気見したい派。何を見ようか迷っていると「あいの里」という恋愛リアリティショーがあったので観てみる。実は恋愛リアリティショーは嫌いではない。暖かいベッドでごろごろ人の恋愛を覗き見するのが気楽でおもしろかったが、3話くらいで徐々に眠たくなり寝てしまった。なんという幸せな瞬間だろうか。時間を気にせず好きなだけ眠れる幸せだ。 目が覚めたらお昼の12時を過ぎていた。お腹も空いてきたけどベッドから起きる気力がない。スマホの画面は暗くなっていて、画面にタッチすると「あいの里」が6話くらいまで進んでいた。3話に戻り途中から観始めるが、また途中で眠くなる。私の才能を一つあげろというのなら、寝る才能かもしれない。1日中ベッドで寝られる。 次に目が覚めると15時を回っていた。嗚呼、今週も1日休みを無駄にしてしまったという後悔の気持ちに苛まれるが、まだ今日は終わっていないという希望もある。その希望から何かやらなくてはいけない衝動にかられ、私は1人たこ焼きパーティを開催することに決めた。お腹が空いたから冷蔵庫にあるものでパパッと何か作って晩酌をするのもいいのだが、それは違うのだ。「たこ焼きを作る」は1日の充実度を5マスくらい進められるが「冷蔵庫にあるもの晩酌」は1マスくらいしか進まない(なんの話)。 たこ焼きを作ると決めたら、なんだか楽しくなってきて軽く身支度をしてお城(私のお家です)を出る。落ちかけの太陽の光さえまぶしく感じ、少しふらふらしながらスーパーに入る。せっかくたこ焼きを作るなら銀だこみたいにソースで味変を加えようと思い立ち、明太子チューブやらとろけるチーズやらも購入。一通りたこ焼きの材料を買い終え、行きつけのスーパーをあとにする。 お家に着き、まずはビールで乾杯だ。冷蔵庫から糖質OFF発泡酒を取り出し、プシュっと開け、ごくごくと飲み干す。せっかくビールを飲むならアサヒスーパードゥゥルァイで豪快に喉越しを感じたいけど振り切れず、体重がこれ以上増えないようにと気休めの糖質OFFの発泡酒で中途半端に縮こまってる自分が嫌になる。サウナから出たあとも水風呂に入る勇気がなく、手先からちびちび水をかけてしまう。つまり私には度胸がないのだ。生活の中で時折、自分の度胸のなさを見つけてしまうが、糖質OFF発泡酒のおいしさですべて忘れた。お腹もペコペコなので早くたこ焼き作ります。 たこ焼きの粉は前回の残りが棚にあったから取り出し、裏面の説明書を読む。「ボールに水を入れて卵を1つだけ入れて混ぜるんや」と記載されていたが、卵1つじゃなんか物足りなさそうと思い2つ入れる。せっかくたこ焼き粉の開発者さんが卵1つで調整して作ってくれたのに、そのレシピに従わずにほんまスンマヘン。正直卵が2つ入ることでどんな風に味が変わるのか知らない。多い方がいいだろうという脳筋で料理をしていました(素人が!!!)。たこ焼きの粉を加えてよく混ぜて一旦放置。 次にたこをぶつ切りに切っていく。たこが足りなくなったら他に入れる具はないので、小さめに切り数を増やしていく。紅生姜とねぎ(既に切ってあるやつ)をみじん切りにする。思いつきで大葉入りたこ焼きも作りたくなり、大葉も適当に切る。ボールに紅生姜・ねぎ・揚げ玉を入れ、よく混ぜて準備完了。もうこの時点で今日のやるべきことを終えた満足感がある。 ホットプレートを取り出し、その上にたこ焼きプレートを置き、油を引いて中火にセット。温まったらプレートに液体を流し込んでいく。ジュワジュワと焼ける音が心地よい。いや、まったりしている暇はない。スピードが勝負やで。小さく切ったタコを一つひとつ入れていき、最後に混ぜた紅生姜たちを入れ込む。両サイドに大葉も入れて、あとは焼き上がるのを待つだけだ。糖質OFF発泡酒も飲み終えたし、次のお酒に行こう。 今日はたこ焼きなのでたこ焼きに合うお酒を作る。それは…ガリ酎ハイだぁぁ!!!ハイボールも捨て難いが、ガリ酎ハイはあまり作る機会がなく、せっかくなのでたこ焼きと楽しもう。グラスに氷を入れ、バースプーンでくるくる氷を回し、グラスを冷やす。流しに溶けた水を捨て、キンミヤ焼酎30ミリリットル入れる。軽く混ぜてその上にガリを好きなだけ入れ、炭酸を注ぎ完成。 ごくっと一口飲む。ガリの酸っぱさが炭酸でちょうどよく薄まっておいしい!甘酢ガリを入れたからいい塩梅に甘味も感じてよきです。焼酎も柔らかくなり飲みやすい。和な甘さでさっぱりめに飲めて、たこ焼きとかお好み焼きとか粉物にピッタリな気がする。 今日もお酒は完璧だ。さぁ、たこ焼きに戻るで。焼き途中のたこ焼きを見るとまだ全然焼けていないようだ。少し不安になり火力を上げてみる。……これが失敗だった。火力を上げ、少しだけ目を離したら焦げた香りが漂ってきたのだ。もうこの時点で失敗したことに気づく。ゆっくり焼けるのを待てばいいものを、ホットプレートを信じきれなかった自分の負けだ。たこ焼きは好きだからおいしく丁寧に作りたかったのだが、目の前にできたのは焼け焦げたたこ焼きたちだ。そんなたこ焼きたちに(ごめんね……間違えたスンマヘン)と心の中で謝る。自我を失って仲間を食べてしまったバケモノもこんな気持ちなのだろうか。 とりあえず完成として、食べてみよう。幸いなことに半分だけが焦げていたのでハーフ&ハーフということで(?)まずはスタンダードにソース・マヨネーズ・青のり・鰹節をトッピングする。前に友達とタコパをした時に、マヨネーズのあとにソースをかけたらそれ違うよって指摘された。ソースのあとにマヨネーズをかけるのが見栄え的にいいらしい。各々たこ焼きの流儀がある。流されやすい私はその流儀に従いソースのあとにマヨネーズをかけていただきます。 口に入れると、あっつい!だけど、この熱さが癖になる。表面は焦げ感が強いが中は意外とトロトロしていておいしい。タコもいた!プリプリ!たこ焼き生地に紅生姜をたくさん入れたからさっぱり食べられてよき。焦げた風味には今年5番目くらいの悔しさを感じるが、ガリ酎ハイを飲むと、めちゃくちゃたこ焼きと合って心が落ち着く。ソースはおたふくのたこ焼きソースを使用。これが鰹だしが効いて旨みぎゅっとなって甘さもありおいしい。もしお家に何も食材がなかったらこのソースをちびちび舐めながらお酒を飲もう。 次に味変として明太マヨチーズで食べてみる。たこ焼きの上にマヨをかけて明太子チューブをちょびっと乗せる。とろけるチーズをかけてバーナーで炙っていく。明太マヨチーズは八方美人だからどんな食材にも合うはずだ。いただきます。引き続きあっつい!だけどチーズは炙ったから香ばしさと焦げ感が出て、それがどこかアウトドア風な雰囲気を出してくれる。ピリッと感じる明太子もいい刺激だ。 ソースと明太マヨどっちがいいかって聞かれたら、今回の場合はソースかもしれない。紅生姜をたくさん入れたたこ焼き生地でジャパニーズモダンスタイルに仕上げましたので、それがソースと合う気がする。 今日はこれで終わりではない。もうひとつやりたかったことがある。それは明石焼だ。むしろ明石焼を1番やりたかった。以前、大阪風の居酒屋で食べた明石焼がとてもおいしくて、それを再現したくおでんの中にも市販のたこ焼きを入れておいしかった。今日は自分で1から作ったたこ焼きを明石焼にします。 まず耐熱容器に水を入れてほんだしを適当に入れる。そこに醤油をちょびっと垂らし電子レンジで2分くらい。その中に三つ葉と作ったたこ焼きを入れて完成だ。待ち望んだ自家製明石焼、まずは汁から飲もう。出汁の香りが心地よく、ホッとする味わい。次にたこ焼きを食べる。 ………………。焦げの主張が強い……。今まではソースとかチーズとかでなんとなく誤魔化せていたけど、明石焼の場合は誤魔化しきれない!明石焼はたこ焼きそのものの資質が問われるのか……。シンプルゆえに誤魔化しがきかない奥深い料理どすえ。 だけど今日はたこ焼きを作って、味変したり明石焼を食べたりしてだいぶ充実した1日になった。たこ焼きを全部焼き切って、ゆっくり飲みながらあいの里の続きを観よう。 ほなまた。