【追憶のスポニチ賞ステイヤーズS】97年メジロブライト これぞ覚醒の瞬間!あっという間に天皇賞馬へ
競走馬の“覚醒”した瞬間を、これほど分かりやすくファンの前に示した一戦も、そうないだろう。メジロブライトがゴールを通過して1秒8が経過した後、2着アドマイヤラピスがようやくゴールに到達した。着差は「大差」。凄みすら感じる勝ちっぷりに、明けて98年のメジロブライトの活躍を誰もが予感した。 鞍上・河内洋(現調教師)は初騎乗。だが、さすがいぶし銀。メジロブライトの潜在能力を余すことなく引き出した。胸突き八丁の2周目3角過ぎ。押してポジションを上げ、直線を迎えたところで早々と先頭へ。あとは後続を突き放す一方だ。拍手に迎えられてゴールを通過し、ワンテンポ置いてから、2着アドマイヤラピスがフィニッシュした。 「仕掛け始めた2周目3角手前での手応えが他の馬と全然違うんだ。天性のマラソンランナーだよ、この馬は」。河内が身振り手振りをまじえて、その強さを解説する。メジロ牧場・北野雄二オーナーは「いやあ、これですっきりしましたよ」とホッとした表情を浮かべた。 皐月賞4着、ダービーは1番人気に推されたが3着、菊花賞も3着。直線で猛烈に追い込むのだが届かないという、もどかしい競馬が続き、メジロ牧場の願いでもあったダービー制覇にも届かなかった。そんな消化不良を一掃するような鮮やかな勝ちっぷり。そして“先行からの抜け出し”という驚きのモデルチェンジだった。 レース直後は「疲労がなければ有馬記念へ」という声も上がったがグランプリ参戦は自重。これは正解だった。 年明けを待ったメジロブライトはアメリカジョッキークラブCに参戦し、2馬身半差で快勝。続く阪神大賞典では同期のライバルで、前年の有馬記念を制したシルクジャスティスとの激闘を鼻差制し、重賞3連勝。いよいよ大一番、第117回天皇賞・春に挑み、2着ステイゴールドに2馬身差をつけ、会心の差し切り。G1の勲章を手に入れた。 その後、G1を勝つことはできなかったが、グラスワンダーやスペシャルウィーク、セイウンスカイなどと幾度も名勝負を繰り広げたメジロブライト。その才能が覚醒した一戦は、間違いなくステイヤーズSだった。