「ワインの味はグラスで変わる」? リーデル青山本店で体験した驚愕の事実とは。
写真をご覧いただくと、ゴブレットグラスはグラスの膨らみ部分より、飲み口の部分が開いているのがわかるだろうか。これによって、ワインに溶け込んだ香りは広がり、その特徴を捉えにくくなる。 一方でリーデルを見ると、どのグラスもワインの膨らみ部分より飲み口の大きさが閉じていることがわかる。これによって、ワインの香りを一方向に集中させて逃さず、繊細な香りまで拾えるようになるというわけだ。 また、ほぼ同じ容量のワインを注いでいるはずのに、液面がグラスの半分以上まで上に来ている。このことが、味わいに決定的な影響を与えてしまうのだという。
グラスのステムを握ってワインを口に運ぶ時、液面を口に入れるためにはグラスを持ち上げ、顔は上に持ち上がっている。これによって舌も持ち上がり、ワインは自然な流れで口を素早く通り抜けていく。 ところがゴブレットやコップのような形状の場合、持ち手を傾けるとこぼれてしまうため、自然と顔は下を向き、液体を口から迎えにいくような形になる。ワインを飲むためには啜らなければならず、液体は口いっぱいに広がるため、口の中の酸味や苦味、えぐみを感じやすい場所にたっぷりと広がった状態でワインが当たることに......。 また開口部が開いているため、ワインを飲むには口を開かねばならず、口に入る液量はさらに増える。これがワイングラスで飲んだ時には感じなかった違和感の正体なのだ。
そもそもリーデルがワイングラスのトップメーカーになったのも、この違和感を覚えたある出来事があったから。 リーデルは1756年、アマデウス・モーツァルトが活躍したのと同時代にオーストリアのウィーンで誕生した、創業265年を超えて一族経営を続けている老舗企業。創業当初はガラス工房としてスタートしたが、1958年、9代目当主となるクラウス・リーデルが各地のワイン生産者に美しいシェイプのワイングラスをプレゼントしたことが、彼らの運命を決定づけることになる。 ブルゴーニュ、イタリアのワイン生産者からは美しいグラスを称賛されたが、ボルドーの生産者からは「このグラスで飲むと、あまりおいしさや香りを感じない」というクレームがあったのだ。そこでクラウスはボルドーのワインに合うグラス形状の研究を始め、翌59年、新しいワイングラスのシェイプを完成させる。これは「ブドウ品種に合わせたワイングラス」という、まったく新しい発想のスタートでもあった。 1958年、59年に作られて以来、形状を変えずにラインナップされている「ブルゴーニュ・グラン・クリュ」グラス(左)と「ボルドー・グラン・クリュ」グラス。「ソムリエ」 ブルゴーニュ ・グラン・クリュ ¥30,250、「ソムリエ」 ボルドー ・グラン・クリュ ¥30,250 73年には、世界で初めてブドウ品種ごとにグラスのラインナップをシリーズ化して発売。以来、新しいグラスを開発する度に「ワークショップ」と呼ばれる工程を実施している。これは品種ごとに作った試作品のワイングラスをワイン生産者、ソムリエなど大人数の専門職の人々と試飲を重ね、最後まで選ばれ続けたグラスの形を採用するという、世界でもリーデルだけが実施しているという規格のこと。品種が同じでも生産地や熟成方法でまったく異なる風味を持つようになるワインに対応するため、さまざまなバリエーションが生まれているのだ。