市場混乱受けた日銀の対話戦略に注目、政策維持へ-19日から決定会合
田村直樹審議委員は12日の講演で、市場変動と日銀政策を結び付ける声に言及し、日銀の経済・物価見通しが実現していけば、緩和度合いを調整していく考え方は4月以降一貫していたとし、「そのことが過不足なく市場に伝わっていたのか、市場の受け止めに対してより適切に対応する術はなかったのか」と苦言を呈した。その上で、市場との対話の改善に絶えず努める重要性を強調した。
住友生命保険の武藤弘明エコノミストは、日銀のコミュニケーションについて「もう少し市場やエコノミストとの間で共通の理解を深めた方がよい」とみている。日銀が把握するミクロデータの取り扱いなどを含めてもう少しクリアな形で情報発信する必要があるとし、今会合では「そうしたミスコミュニケーションに関して、何らかの改善が見られるかに注目したい」という。
中立金利
田村委員は講演で、経済・物価に対して中立的な名目金利の水準(中立金利)について「最低でも1%程度だろう」と指摘。日銀が経済・物価情勢の展望(展望リポート)で示した2024-26年度の見通し期間の後半には、「少なくとも1%程度まで短期金利を引き上げておくことが、物価上振れリスクを抑え、物価安定の目標を持続的・安定的に達成する上で必要だ」と踏み込んだ。
日銀は8月に自然利子率の各種手法に基づいた推計結果を公表しており、関係者によると、中立金利は少なくとも1%程度というイメージが日銀の念頭にある可能性がある。植田総裁は7月の会見で、中立金利に関して「大幅な不確実性がある」との認識を改めて示しつつ、0.25%への利上げは「その不確実な範囲よりはかなり下にあるという点で、そこの範囲での調整である」と説明した。
SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは、今週の会合について「焦点は利下げを含む米国経済に対する評価と、植田総裁の中立金利に対する見解だ」とみている。
直前の17、18日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)では、雇用の伸びの減速を背景に4年半ぶりの利下げが確実視されている。日銀は市場急変後も経済・物価動向は見通しに沿っているとし、利上げ継続路線を堅持する見通しだが、米国の経済動向や金融政策運営による市場への影響などに引き続き注意が必要となる。