やたら「歴史で物事を語りがち」現代中国人の心理 『中国ぎらいのための中国史』安田峰俊氏に聞く
実際、中国共産党の総書記を皇帝に、首相を丞相になぞらえることはよくみられる。党の学校では名目上の校長が党総書記だが、その学校の生徒は「天子門生」と皇帝の弟子とよばれる。 それは言葉遊びにすぎないが、外交姿勢や国際関係の見方がその言葉や意識に規定されているところもある。アジア諸国を招いた国際イベントを報じる際には報道で「万邦来朝」という言葉が出てきた。天下のさまざまな国が朝廷にやってきたことを指す言葉だが、かつての朝貢関係を擬似的に復活させた中華帝国的なニュアンスがみえる。
中国は近年まで対等な国家関係を経験することがなかった。前近代は周辺国が皇帝の徳を慕ってやってきて名目上の臣下の儀礼をとり、皇帝は贈り物を持たせて帰らせるという朝貢関係だったが、1840年からのアヘン戦争で敗北して以降、欧米列強より下に扱われることを経験した。 明治維新後にアジアの一等国として他国と対等な関係を築こうとしてそうなった日本とは異なる経験をしてきたのだ。 いざ国力が強くなったら、朝貢関係とも低く扱われた時代とも異なる態度を取るようになった。現在は他国との関係について、文面に「対等」という言葉が入るようになったが、中国に「対等」の感覚や実感はない。だから国際社会でどう外交をすればいいのかが、中国の中でもはっきりしていないのかもしれない。
それが攻撃的な外交スタイルである「戦狼外交」や、西側に対する恫喝的な姿勢につながっている可能性はある。 ■「直訳メッセージ」に翻弄されないために ――中国側が歴史的な言い回しや考えでやっていることを理解する必要がありそうです。 2024年5月に中国の呉江浩駐日大使が、台湾に関わり続ければ「(日本の)民衆が火の中に連れ込まれることになる」と発言した。日本政府が厳重抗議したほどのきつい言い回しだが、本人たちは中国のことわざを引用しただけで「やけどするぞ」くらいのつもりで言ったのだろう。