未来のための古生物学

　さて、パタゴティタンを中心とした大英自然史博物館の特別展は、単に「大きいな～　すごいな～」で終わるのではなく、現代の大型動物を守ろうというメッセージにも昇華されています。現在、アフリカゾウやキリンといった大型動物が絶滅の危機に瀕しており、我々人類は彼らを守るために何かしなければならないのでは？　という趣旨です。 　筆者はその方針に感銘を受けて、「巨大恐竜展 2024」でも環境への負荷を軽減する取り組みを促し、生物多様性を守るための具体的な行動を起こそうと呼びかけています。ユニセフが提唱する持続可能な開発目標（SDGs）でも、14番で「海の豊かさを守ろう」が、15番で「陸の豊かさも守ろう」が提唱されています。本展をきっかけに、生物多様性維持のために、口先だけでなく行動に移して頂ければ幸いです。とはいえ、無理をしたら長続きしませんので、例えば野生生物保護活動の募金に寄付するとか、エアコンや照明などの電力を控えめにするといった、誰でもできることから始めてはいかがでしょうか。

エウヘロプス（福井県立恐竜博物館蔵）

　蛇足となりますが、「持続可能な恐竜発掘」についても言及させてください。鳥を除く大部分の恐竜は6600万年前に絶滅してしまいました。原因は諸説ありますが、ユカタン半島に衝突した隕石またはデカン高原を形成した大規模な火山活動により地球の環境が大きく変動したことが要因と考えられています。一方、産業革命以降の人間活動によって大気中の二酸化炭素濃度が上昇しており、その影響か近年各地で異常気象が報告されています。 　福井県でも令和4年8月の大雨により発掘現場に通じる林道が壊れ、発掘を中止せざるを得なくなりました。前述のSDGsの13番目には「気候変動に具体的な対策を」が盛り込まれていますが、安全に恐竜の発掘を続けるためにも二酸化炭素の排出抑制に取り組みたいと思っています。 　末尾となりましたが、私が早稲田大学に在籍していた時の恩師、平野弘道教授（故人）の目標は「古生物学を予測の科学に」でした。古生物化石の研究によって、過去数億年の間に多くの生物が絶滅と繁栄を繰り返してきたことがわかりました。しかし、有史以来の人間による乱獲や環境破壊によって、それ以前とは比べ物にならない速さで野生動物が絶滅に追いやられていることもまた明らかになってきました。古生物学によって過去から得られた知識を未来予測のための科学として活用し、恐竜の研究が人類だけでなく多くの生物の発展に役立つことを願っています。 【関谷　透（せきや　とおる）】 福井県立恐竜博物館　主任研究員。1981年埼玉県生まれ。中国吉林大学研究生院地球科学学部博士課程修了。四川省自貢恐竜博物館にて研究職員として勤務の後、2013年に福井県立恐竜博物館に着任。中国の雲南省と四川省のジュラ紀の地層から産出した竜脚形類、および福井県やタイ国東北部から産出した白亜紀の竜脚類の記載と分岐分析を行っている。北海道と福井県勝山市、中国各地（雲南省、山西省、河南省、新疆ウイグル自治区、黒竜江省など）、およびタイ国東北部での野外調査と発掘に参加してきた。