【“争続”を回避する最短準備の手続き】相続税調査、付言事項、執行者の選任を進め、新制度「戸籍謄本の広域交付」の活用を
死後、家族が揉める火種になりやすい相続。手続きが煩雑なイメージが強く、「どこから手をつければいいかわからない」という人も少なくないが、最初にやるべきことはシンプルだ。相続専門の行政書士である中田多惠子氏が語る。
「まずは遺産に相続税がかかるか調べましょう。相続税がかかる場合は生前贈与を進めて財産を圧縮するなど、それなりの対策が必要ですが、日本で相続税の課税対象となる被相続人は9.6%(令和4年度)で全体の9割以上は相続税がかかりません。その場合、相続手続きは比較的簡単です」 相続税は「3000万円+600万円×法定相続人」が非課税だ。相続人が配偶者と子2人なら財産が4800万円以下なら相続税はかからない。 「土地建物を合わせたらうちも相続税が発生するのでは、と思う人は多いですが、意外に該当しないものです。相続税がない場合、遺言書を作っておけば死後の揉め事の多くを防げます」(中田氏) 一定の法的拘束力を持つ遺言書には、被相続人が自筆で作成する「自筆証書遺言」と、公証役場で作成する「公正証書遺言」がある。自筆証書遺言は自分で何度も書き直しができるが、注意点がある。 「自筆証書遺言は、原則『全文を自筆で書く』『日付を入れる』『名前を書く』『印鑑を押す』が揃っていれば有効です。ただし、正しい内容を記入することが重要。なかでも不動産の表記は通常の住所とは異なり、土地は地番、建物は家屋番号で表記する必要があります」(同前) 地番や家屋番号は固定資産税納税通知書などに記載されている。
相続税がかからない場合、大きな財産は自宅の土地建物だけというケースが多い。その際、被相続人の気持ちを残す「付言事項」を活用したい。 「遺産分割のため自宅を売却して現金化することがあります。しかし妻が自宅で暮らすことを被相続人が望むなら、『妻はずっと自宅に住めるようにしたい』と遺言書の付言事項に書いておけば、故人の意を汲んだ相続が行なわれる可能性が高くなります」(同前) 加えて、遺言書の執行に必要な一切の権利や義務を法的に持つ「遺言執行者」を記しておくと、より効果的だ。 「遺言執行者は未成年、破産者以外は誰でもなれます。弁護士や税理士を指名すると費用がかかりますが身内は無料。一般的には財産を受け取る人ですが、妻は高齢の場合もあり、協力してくれる子供を指名するのがベター。遺言執行者を遺言書に記していないと改めて家庭裁判所で選任する必要等があり、とても面倒です」(同前) 相続時は被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本が必要になるが、近年はこうした書類集めも格段に楽になった。 「2024年3月にスタートした戸籍謄本の広域交付により、被相続人の本籍地が複数にまたがっていても、最寄りの役所ですべての戸籍謄本をまとめて取得できるようになりました」(同前) 新制度を活用しつつ、死後に「争族」を生まない最低限の備えをしておきたい。 ※週刊ポスト2025年1月3・10日号