【神尾茉利さん】刺しゅうは美しく仕上げなくてもいい。「その人らしいいびつさ」「ノイズが残った作品」こそ魅力的【作品写真多数掲載】
今回のゲストは、刺しゅう作家で美術家の神尾茉利さんです。神尾さんは、20代半ばから刺しゅう作品「ひみつのはなし」の制作をスタートし、イラストやテキスタイル作品、自身の刺しゅう本を出版するなど幅広く活躍してきました。『LEE』2023年3月号では“ひらがなネーム刺しゅう”を紹介、人気を集めました。 前半では、神尾さんが刺しゅうを使って表現をするようになったきっかけ、小説と刺しゅうを組み合わせた著書『刺繍小説』(扶桑社)が生まれた背景、そして新入園・入学に向けて活用したい100のステッチと100のアイデアを紹介する最新著書 『ステッチをたのしむ刺繍レッスン』(河出書房新社)についてお話を聞きます。(この記事は全2回の第1回目です)
“上手に使いこなせない”“いびつに仕上がる面白さ”が刺しゅうの魅力
神尾さんが刺しゅうを好きな理由、それは刺しゅうという手法が筆やペンよりも使いにくいから。“上手に使いこなせない”“いびつに仕上がる面白さ”が魅力だと言います。 「小学校中学年の時に油絵を習っていました。ずっと絵を描くのが得意で、美大ではデッサンで実物のように描くこともしました。だけど刺しゅうは、うまく使いこなせない。自分が思うように刺しゅうできないんです。筆ほど自由ではなく、制約があるからいびつになるのが面白くて。オーダーを受けて作るものはきれいに作ろうと意識しますが、自分のために作るものはちょっと下手なほうが面白い。刺しゅうはやればやるほど上手くなりますが、しばらくやらないと下手になっていて(笑)。それも逆に面白いんですよね」
神尾さんの刺しゅうのアイデアは、スケッチから。下絵を描いて、それをどんな色や糸にするか考えながら刺しゅうを施していきます。 「『ステッチをたのしむ刺繍レッスン』のような書籍の制作では、編集者と共有しながら順序立てて考えていきますが、自分の作品を作るときは、スケッチをもとに自由に決めていきます。ペンでぐしゃぐしゃに描いたところは、刺しゅうもぐしゃぐしゃになるように縫います。糸も刺しゅう糸や毛糸を自由に合わせます。色のルールがあるとしたら、使わない色を決めておくこと。メイン、サブ、ポイントになる色をそれぞれ決めてやることが多いです」