【神尾茉利さん】刺しゅうは美しく仕上げなくてもいい。「その人らしいいびつさ」「ノイズが残った作品」こそ魅力的【作品写真多数掲載】
神尾さんの作品は、カラフルでたくさんの色を使います。モチーフには動物や植物が多く、愛らしい表情やユニークな動きが目を引きます。動物や植物が多い理由は、「動物が好き」「有機的なものが好きだから」。特に野生動物が多い理由は、「身近にいないからこそ惹かれるんだと思います」と神尾さん。 「街って人の服装や看板など色が多いですよね。だけど不思議とまとまっています。刺しゅうも同じでどんな色を使っても、なんとなくしっくり合うものなのだと思っています。まとまりすぎているより、ちょっと違和感がある・ノイズっぽいものが面白いと思っていて。作っているものは自然のモチーフが多いですが、人がいることで存在しているもの・作られたものからインスピレーションを受けることが多いです。街を歩いたり散歩したりが好き、街が好きなんです。人が作り出したものから前向きな気持ち、やる気をもらえることが多いですね」
海外の小説は“刺しゅうで人生を切り拓く”、日本の小説は“刺しゅうで本当の自分を見つける”内面的なお話が多い
2019年に出版した本『刺繍小説』は、手芸本でも小説でもない、“刺しゅう小説”という新たなジャンルを生み出した本です。刺しゅう描写が出てくる小説を取り上げ、神尾さんがその刺しゅうを実体化。さらに神尾さんが文章を綴るという、多様な感性が織り混ざった美しい本です。 「小説の中で料理をしている人は多いけれど、刺しゅうをしている人ってあまりいませんよね。面白そうと思って“刺しゅうが出てくる本”を探し始めると20数冊見つかりました。最初は、ただその小説を紹介しようとしたのがですが、それだけだとわかりにくい。私の視点がより伝わるように刺しゅうを実体化し、私の文章を添える形になりました。第二章では、小説には刺しゅうは登場しないけれど“そこにあったかもしれない”と想像して、刺しゅうを作りました」 日本と海外の小説では、刺しゅうをする人物のキャラクターも違っており、「私が読んだ本だと、海外の小説は“刺しゅうで人生を切り拓く”、刺しゅうを武器に生きるみたいな感じ。日本の小説は刺しゅうで本当の自分を見つけるみたいな内面的なお話が多いように感じました」。『刺繍小説』に込めた想い。それは、刺しゅうをしない人にも本を手に取ってもらい、想像することの楽しさを知ってほしいからだと言います。