「余計なお世話」は顧客を減らす トライアルHD永田洋幸CDOが語る「店舗のメディア化」に大切なこと
2023年、生成AI「ChatGPT」の登場が世界に衝撃をもたらした。だが、業界によっては生成AIの活用をまだ遠い未来の話と捉えているかもしれない。そんな中、「流通小売業に生成AIを導入するのは不可避」と語るのは、九州を拠点にディスカウントストアを展開するトライアルホールディングスの取締役CDO、永田洋幸氏だ。2023年12月、書籍『生成AIは小売をどう変えるか?』(ダイヤモンド社)を出版した同氏に、小売りの現場で生成AIを活用する上でのポイント、トライアルが現在進めている「リテールメディア」の取り組みについて聞いた。(前編/全2回) 【画像】永田洋幸 『生成AIは小売をどう変えるか?』(ダイヤモンド社) ■ 生成AIも「収益化」につながらなければ意味がない ──著書『生成AIは小売をどう変えるか?』では、日本の流通小売業がDXを進める上で、「データによる収益化戦略(Data Monetization)」が重要視される現状について解説しています。この言葉にはどのような意味が込められているのでしょうか。 永田洋幸氏(以下、敬称略) 生成AIのような最先端のテクノロジーを使っても、実際の小売りの現場に導入されて、それが収益化に寄与しなければ意味がない、ということです。 例えば、メディアの記者が取材をするならば、VRデバイスを使ってリモート取材をした方が効率的かもしれません。しかし、少なくとも私はそうした記者の方を見たことがありません。なぜだと思いますか。 ──デバイスが高価な上、便利そうに見えても実際の取材で使うとなるとスムーズに使いこなせないかもしれないから、でしょうか。 永田 そうですよね。どんなに素晴らしいテクノロジーであっても、実際にデバイスを購入し、それで面白い記事を効率的に作れるかどうか、ひいては収益化につながるかどうかは未知数です。最先端のテクノロジーであっても、顧客であるユーザーのことを考えたものでなければ、市場に認めてもらえないのです。 流通小売業に話を戻すと、一般消費者であるお客さまとのタッチポイントが重要な意味を持ちます。お客さまとのタッチポイントを第一に考えてテクノロジーを活用しなければ、話題の生成AIも単なる自己満足の道具になってしまうでしょう。 一方で、成長著しい生成AIの活用に乗り遅れれば、厳しい競争を強いられることも確かです。だからこそ、小さな失敗や検証を繰り返しながら、生成AIの活用方法を模索しなければなりません。