「余計なお世話」は顧客を減らす トライアルHD永田洋幸CDOが語る「店舗のメディア化」に大切なこと
■ 店舗から顧客への「余計なお世話」を減らす ──では、顧客とのタッチポイントで生成AIを生かすには、どのような視点が必要でしょうか。 永田 生成AIの特性上、データなくして価値を生むことはできません。例えば、「明日の朝食はご飯とパン、どちらにしますか?」という二択のリコメンドでよいのであれば、生成AIもデータも必要ないでしょう。 生成AIが役立つのは、お客さま個人の過去の膨大なデータを活用して、多数の選択肢の中から、その人の状況やライフスタイルに合わせた「適切な提案」を行う場合です。また、何百万人ものお客さまと日々接する流通小売業が在庫データを共有・分析することで、欠品・ロスの削減にもつなげることができます。 さらに、小売業が生き残るためには、小売りの現場で取得できるPOSデータやID-POSデータの価値を最大化することが求められます。取得した顧客データをサプライチェーン全体で共有すれば、より効率的な流通の仕組みを構築できるはずです。例えば、自動発注の精度が上がったり、メーカー・卸・小売各社が共同で販売戦略を立案したり、顧客一人一人に最適な商品提案をしたりできるかもしれません。 ──トライアルでは現在「リテールメディア」(店舗のメディア化)に注力していますが、ここでもデータ活用を進めているのでしょうか。 永田 トライアルでは店内のデジタルサイネージ、レジカート、会員アプリ、レシート、ホームページ、LINEアカウントといったあらゆるデバイスや媒体を「メディア」と捉えて、お客さまのデータを活用しながら情報を発信しています。 リテールメディアを活用する上でポイントになるのが、店舗からお客さまへの「余計なお世話」を減らす試みです。広告の無駄打ちを防ぎながら、適切なメディアを通じて、適切な特典を提供できれば、お客さまは必ずロイヤルカスタマーになると考えているからです。こうした取り組みを通じて「つい手に取ってしまう」という購買を増やすことが、データによる収益化の実現につながると考えています。 皆さんも経験があると思いますが、ウェブサイトや動画配信サービスで無理に見せられる広告ほど不快なものはありません。その企業や商品サービスに対する認知度・好感度を上げるどころか、不快な印象が残ってしまい、売り上げの低下につながるリスクすらあります。 お客さまの時間を奪って必要としていない広告を強制的に見せても、良いことは何一つないのです。だからこそ、リテールメディアを展開する上では、お客さまに関するさまざまなデータを活用することで「広告の無駄打ち」を減らすためことが重要になります。