「お前の銀行にいくら預けてると思ってるんだ!」と凄むカスハラ客に、メガバンク行員が思わず言ってやりたい「ひと言」
● 「口座を客に使わせてやってる」 客を見下す姿勢がカスハラを助長 苦情対応を指導する講師のセリフを紹介しよう。全店の預金担当課長がリモートで集められた研修での1コマである。 「『お客様は神様』だと思ってるんですかあ?違いますよー。全然違う。当行の口座を使わせてやっているぐらいに考えて下さい。これまでの発想を180度変えて下さいね」 「神様ではなく、対等な立場だ」と言うならまだ分かる。それを通り越して「口座を使わせてやっている」と言い出している。上からの言い方に違和感を覚えた。 「普通預金口座を開設する時、当行は手数料をいただいてますか?欧米の銀行は手数料がかかるでしょう。国内でも残高に応じて手数料を取る銀行はありますが、私たちの銀行はいただいてません。手数料は、サービスの対価としてもらうものでしょ?もらってないんですよ、うちは。だから『口座を使わせてやっている』んです」 「困った客には毅然(きぜん)と対応しなさい。もっと自信を持って対応しなさい」という対応指導で留めておけばよかったのだ。 「銀行のほうが立場は上」という発言を聞き、「この講師は身をもって苦情対応を経験したことがあるのか」と甚だ疑問に思った。いくらカスハラ防止のポスターをロビーに掲示しても、本部がお客をお客と思わず、上から見下ろす姿勢であれば、それを感じ取ったお客からのハラスメントは減らないどころか、むしろ助長しかねないだろう。 前述のXへの投稿については、支店内で対応を協議したが、最終的には広報部の意見通り、投稿は放置することになった。我が行ではこうした対応を「静観」という。
● 「預金を全部よそに持っていくぞ」と 怒鳴る客に思わず言いたくなるひと言 先の女性行員が欠勤した翌日、数人の男性から彼女を指名する電話が10本程度あった。特に用件はないようだ。一目見ようと、あるいは声を聞こうと思ったのかも知れない。女性であれば、妊娠中や産後間もない行員もいる。また、反抗期の育児や親の介護で疲弊している行員もいる。彼女らは非常にセンシティブになっている。お客次第で、職場復帰できないくらい取り返しがつかなくなることもある。 「『お客様は神様』じゃねえのかよぉー!」 私自身、窓口でよく言われることがある。そして、それを聞く度にさまざまな葛藤を覚える。銀行は不特定多数のお客を相手に、表向きには皆平等に応対しなくてはならない。だが、実際には自分の銀行をもうけさせてくれるお客を差別化している。 長らくゼロ金利、いや、マイナス金利が続いてきたおかげで、預金残高が多いお客は神様ではない。その残高に対して、預金保険機構に保険料を支払わなければならない。 「お前の銀行にいくら預けてやってると思ってるんだ!全部よそに持っていくぞ、コラ!」 と言われると「どうぞ他行にお預け下さい」と喉元まで出そうになる。 東京都では全国自治体で初めて、カスハラを防止する条例が10月4日に成立した。2025年4月1日に施行される。私にしてみれば、遅すぎるくらいだと感じる。 あれから3カ月。彼女はいまだに出社できていない。いつ出勤できるか分からなければ、人員の補充もなされない。したがって、同僚への負担も大きくなる。支店の雰囲気が悪くなる。心ないSNSの投稿ひとつで、壊れてしまうものは計り知れない。 この銀行に勤務して四半世紀。つらいこともうれしいこともあった。私は今日もこの銀行に感謝しながら、懸命に神様へ対応している。 (現役行員 目黒冬弥)
目黒冬弥