よくわかる男性育休 取得率向上させたい企業が陥る落とし穴とは?
厚生労働省が発表した男性の育児休業取得率は、2023年度に30.1%と初めて3割を超え、過去最高となった。育児・介護休業法改正を受けて大企業を中心に男性育休の取得が広がる一方で、取得率の伸び悩みや、休む男性社員のカバー体制などに頭を痛める企業は多い。政府は2025年に男性育休の取得率50%の目標を掲げ、取得率の公表が従業員300人超の企業にも義務づけられようになる。2024年5月に東京で開催されたジェンダーギャップ会議で男性育休について解説した日本ギャップ解決研究所所長の塚越学氏に、改正法のポイントや企業の対応で陥りがちな落とし穴などについて詳しく聞いた。
育休が取得しやすくなるのは「上司からの後押し」
――男性の育休取得率が過去最高になりました。2022年4月以降、段階的に施行された改正育児・介護休業法が後押ししているとみられます。改正法のポイントを教えてください。 「一番のポイントは、妊娠・出産の申し出をした労働者に対して、事業主が個別に育休制度の周知と取得の意向確認を行うよう定められたことです。これまでは育休取得の申請をした人だけに対応する企業が多かったと思います。改正法では本人の意向とは関係なく、妊娠・出産の申し出をした全員に、企業は制度の詳細や申請書の提出先、育休を取った場合の給付金などについて個別に説明しなければならなくなりました」 「こうした制度は恐らく世界初ではないでしょうか。日本に合った形なのだといえます。海外だと休業の取得など与えられた権利は使うのが当たり前ですが、日本は権利があっても行使には慎重です。私が理事を務めるNPO法人ファザーリング・ジャパンで4年に1回、働く男性に対して実施している調査でも、『どんな条件や環境なら育休を利用しやすいか』という質問への回答で圧倒的に多いのが『上司からの後押し』です。キャリアへの影響や経済的負担の回避を選ぶ人は1割程度と少ない。人事部から育休取得の呼びかけがあっても、上司の顔が頭に浮かぶ人は少なくないと思います」 「改正法では育休などの制度周知は『事業主がする』とされているため、上司ではなく人事部が対応するケースも多いでしょう。人事部だけでも、子どもが生まれる従業員が少なければカバーできるかもしれませんが、直属の上司から制度を周知し、取得を働きかけている企業は確実に取得率が伸びています。人事部のメールのCCに上司を入れるなども効果的です」