【西武投手王国への道】色濃くなったチーム内で刺激し合うカルチャー「今のうちには怠ける子がいない。彼らの取り組みをリスペクトしています」(豊田コーチ)
パ・リーグ最下位に終わったが、西武の最大のストロングポイントである投手陣。近年、急速に力をつけてきたが、その裏には一体、何が隠されているのか。ライオンズ投手王国への道を追う――。 取材・文=中島大輔 写真=川口洋邦 【選手データ】豊田清 プロフィール・通算成績
成長著しい先発右腕・今井
2024年のペナントレースが残り3試合となった9月30日。本拠地ベルーナドームでの日本ハム戦に向けた試合前練習が終わってロッカールームに引き揚げる時間になっても隅田知一郎、平良海馬、與座海人ら投手たちが熱心に話し込んでいた。 「豊田さん、どう思いますか?」 豊田清投手コーチが振られたのは、ピッチャーは身体をどうつくり上げるのかというテーマだった。 今季リーグ8位の防御率2.76を記録した隅田は22年オフから先輩の今井達也とともに鴻江寿治トレーナーの下で自分に合った体の使い方を学び、トレーニングとランニングをうまく組み合わせている。平良は高校時代からウエート・トレーニングに励み、筋骨隆々の肉体を磨き上げた。與座は今季開幕前に平良や高橋光成と自主トレを一緒に行いウエートなどで体重を増やしたが、いざ動いたら体が重く感じて減量した。 対して豊田コーチは現役時代、最初は走り込みを中心に行ったが、トレーニングを取り入れるように変えた。試行錯誤しながらプロで19年間プレーできた経験を踏まえ、後輩たちの背中を押した。 「野球人生は1回しかない。いろんなやり方がある中で、もし平良みたいに最初からウエートに励んでいたら違う自分があったかもしれないけど、こればかりは分からないよね。特に今はいろんな情報もあるので、自分に合うものをしっかりチョイスできればいいと思う」 豊田コーチは20年にコーチ就任時、前年まで2年連続チーム防御率最下位だった投手陣に「キャッチボールの1球を大事にしよう」と意識改革を促した。ベンチ入りして投手陣の運用を担い始めた3年前から「オフにやってきた取り組みをそのまま出してくれ」と伝えている。そうして今では12球団トップクラスと言われるほどの陣容になった。 「うちの投手陣の『成長しよう』という姿勢は、彼ら自身がすごく濃くしている気がします。練習でこっちからノックを打って『ボールを捕ってこい』とか、『今日は走れ』というやり方はしたくない。各々にやりたい内容があり、明確な理由があるならその方法を容認する。今のうちには怠ける子がいない。彼らの取り組みをリスペクトしています」 なかでも成長著しい一人が今井だ。豊田コーチが続ける。 「うまく行かず、答えが分からないころの今井はマウンドでイライラしていた。機嫌で野球をやっているのかなと見えていたけど、それは前が見えていなかっただけのこと。今、やっと前が見えた。今井はいろんなことを考えて何百種類と取り組み、信じるものができた結果、はまって去年からの形(投球フォーム)になり大きなブレがなくなってきた」 入団7年目の昨季、今井は自身初の2ケタ勝利を飾り、今季は最多奪三振に輝いた。その裏には確かな取り組みがあると豊田コーチは語る。 「以前は急に走り込みをしたり、全然やらなくなったりと練習にもムラがあった。でも今はトレーニングをすごくするし、1人でパッパと走る。無駄な動きをしない。みんなを引っ張るように、とにかく自分でやる。変わってきたなと思います」