《記者コラム》 なぜブラジルにはバレンタインデーがないのか=知る人ぞ知る意外な理由
ドリア元州知事の父が作り上げた新習慣
2023年6月12日付BBCブラジル《なぜブラジルは「バレンタインデー」に反対して、6月に「恋人の日」を祝うのか》(1)には、興味深い事実が書かれている。 先週の水曜日、2月14日は日本をはじめ欧米では「バレンタインデー」として知られている。日本では女性が男性にチョコレートを贈る日だ。戦前から散発的にバレンタインデーは行われていたが、森永製菓が1960年から新聞広告キャンペーンなどを大々的に行なって以降、知名度が上がり一般化したといわれ、商業的な習慣だと言われる。 だが、ブラジルでは全く祝われない。代わりに1948年以来、ブラジルでは6月12日を「恋人の日」として盛大に祝っている。これは、日本や欧米にはないブラジル独自の習慣で、この日はカトリックの〝縁結びの聖人〟サントアントニオの日だ。 聖バレンタインは3世紀のローマのカトリック聖職者で、聖アントニオは12世紀末から13世紀のポルトガルの聖職者なのでまったくの別人だ。なぜそうなったかに関してBBCは《その理由は宗教的な意味とは関係がなく、商業的なものである》と断定している。
同記事によれば、そのように仕組んだのは実業家で、元聖州知事ジョアン・ドリア・ジュニア氏の父親、広告代理店「スタンダード・プロパガンダ」経営者のジョアン・ドリア氏だったというから、興味深い。 《彼は、いつも(商業界の)売上げ不振だった6月を改善する目的でクリッパー・エキシビション・ショップに雇われた。母の日の成功に触発されたドリアは、その年に贈り物を交換するもうひとつの日、「恋人の日」を設定した》とある。 南米では真冬の6月は、最も商業界の売り上げが不審な時期であり、そこに「恋人の日」を持ってくることでプレゼント交換という行事を始めた。そのきっかけとして6月12日、サントアントニオの祝日を選んだ。 それを盛り上げるためのキャッチコピーは、「Não é só com beijos que se prova o amor!(愛を証明するのはキスだけじゃない!)」だった。「恋人の日」には、愛する人にプレゼントを贈って愛を証明しようと大々的にキャンペーンを張り、さらに「Não se esqueçam: amor com amor se paga(愛には愛で報いることをお忘れなく)」という対句も打ち出した。お互いに贈りあうことで、売り上げは2倍に膨れ上がる。天才的な目論見だ。 終戦直後の暗い世相にパッと明るい陽を差し込ませるようなキャンペーンであり、あっという間に定着した。この広告キャンペーンは、パウリスタ広告協会によって1948年の年間最優秀賞に選ばれた。 現在でも6月の恋人の日は、12月のクリスマス、5月の母の日に次いで、3番目に商取引の盛んな日となっている。