心ができたばっかりの頃の、非日常の思い…。引き出すことで人は元気になる
誰もが達人になる素質を生まれ持っている
では、加藤さんたちは、どのようにして達人を育成しているのでしょうか。 キーのひとつは、コーディネータといわれる人たち。体験プログラム「みちくさ小道」のイベントが始まる、その1年から数年くらい前から、じっくりと時間をかけて達人の育成が着々と行われます。加藤さんは「育成ではない。コーディネータの人たちは、その人の話をしっかり聴き、人のもつ強さを自然に引き出していくだけ。だれでも達人になる資質を生まれ持っている」と言われます。 吉備野工房ちみちのコーディネータはほとんどが女性。カウンセリングの資格を持っている方もおられ、達人候補者から、時間をかけて得意なことややりたいことを聴き出していきます。ポイントは、(1)話をよく聞く、(2)受け入れる、(3)一緒に作っていく、の3点。 加藤さんがおっしゃるには「実は、小学校低学年の頃の思いが大事」だそうです。「そのころやりたかったけれどもできなかったこと、つらかった思い出、逆に得意だったこと。社会に出始めた小さな子供の頃の思いを人はずっとひきずっている。長い間、忘れて生きてきたけれども、心の奥底に眠っている、それぞれの思い。懐かしい、心ができたばっかりの頃の思い。そんな非日常の思いを引き出してあげると、人はものすごく元気になる。それを、引き出しているだけ」。そうおっしゃいます。ここに加藤さん流の達人育成の極意があるように思います。 そもそも、加藤さんがこの取り組みをされたきっかけは、「子育てが終わり、働こうと思ったら、仕事がない。こんな社会っておかしいのではないか。誰にでも活躍する場があっていいのではないか。」という疑問だったそうです。 だれにでも、達人になる素質があるはず。だから、「一人一品」では、個人の特性にフォーカスし、それを形にしていくのです。 育成された「達人」は、様々な体験プログラムを実践します。体験プログラムを主催し、運営することで、「達人」は、より「達人」らしく進化します。体験プログラムは、モチベーションを上げる場、経験を積み重ねる場、ネットワークを作って行く場、まだ見ぬ新しい自分に気づく場なのです。それらに気が付くことは、さらなる新しい挑戦につながります。地域との距離もより近づく。社会をよくする方向へ、気持ちが向いていくのです。