死別も見すえる熟年ゲイカップル。30年連れ添ったふたりの未来は…『スイもアマイも』【書評】
夫婦として長い時間をすごしていれば、一緒にさまざまなことを経験しているもの。それはゲイのカップルであっても同じだ。『スイもアマイも』(市ヶ谷茅/KADOKAWA)は、連れ添って30年になるゲイのカップルを描いている。 【漫画】本編を読む
互いに年をかさね、第二の人生を歩みだした現在。死別や認知症などの問題も他人事ではなくなったふたりが、日々の食卓をはさみながら、過去をふりかえり、現在を喜び、未来にそなえるハートフルな物語だ。 修志(しゅうじ)は、元シェフで、現在は料理教室の講師などをしている。清嗣(きよつぐ)は元消防士。ふたりは幼馴染でもあり、連れ添ってもう30年になる。消防士だった経験から火の恐ろしさに敏感だったり、家族との不和から自己肯定感の低さを抱えていたり、これまで積みかさねてきた人生が、現在の彼らを形づくっているさまが丁寧に描かれている。 たとえば、修志が距離をとっていた母の死をむかえた際に、むしろせいせいしていることに気がつき、みずからを卑下する場面がある。しかし清嗣は、悲しくなくても間違いじゃない、みんなと同じじゃなくても良いと、修志をはげまし強く抱きしめる。 こういった過去のエピソードからは、大多数とは違う道を歩んできたふたりの、これまでの長い年月と、お互いに対する強い信頼を感じることができる。だからこそ、ふたりから発せられる言葉は私達にも深く刺さるのだ。 またふたりの間に強い絆があるからこそ、死別や認知症、相続といった「ふたりの未来」を見すえて行動していくさまを当然のものとして受け入れることができる。マイノリティの立場から、養子縁組や後見人や遺言まで、さまざまな法的な手段を検討し、なるべく不自由のすくない道を選択してゆく。このあたりの施策はかなり具体的に描かれており、ゲイカップルの日常の物語という以上の価値を生みだしていると言っていいだろう。 穏やかな日常や作りだされる料理に、ただ癒されるのも良いだろう。熟年をむかえた性的マイノリティとしてとっておくべき対処など、現実的なハウツー本としても読むことができる。そんな「スイもアマイも」あふれる、このふたりの空気をぜひ堪能してみてほしい。 文=ネゴト / たけのこ