白亜紀末大絶滅後、すぐに繁栄?ゲノム新検証が導いた硬骨魚の進化プロセス
大絶滅前後のドラマ
そして白亜紀最終末の約6千600万年前までに、鳥類を除く恐竜種と共にたくさんの他の動植物グループも滅んだ(下の記事参照)。一連の犠牲者には様々な海洋動物が含まれている。例えば先述したモササウルスや首長竜(=恐竜ではない)、そしてたくさんのサメの仲間。そしてアンモナイトと呼ばれる硬い殻をもったイカ・タコの近縁グループ達は、全ての種が死に絶えた。 ―「白亜紀末大絶滅はなぜ起きた?(上)-“化石記録”ミステリーの歴史」 ―「白亜紀末大絶滅はなぜ起きた(下)-南米アルゼンチン植物化石のメッセージ」 それでは「白亜紀末の大絶滅」前後に、アカンソモルファ類の直接の祖先にあたる硬骨魚たちは、どのようなプロセスを経て今日の繁栄をとげたのだろうか? どうして白亜紀末の大絶滅を生き延びることができたのだろうか? この問いかけに真正面から向かい合うような研究は、今回取り上げた論文(Alfaro等2018)が発表されるまでほとんどなかった。 今回の研究チームは、まず現生アカンソモルファ類の77科に及ぶ118種から体組織のサンプルを集めた。ゲノム解析のデータをもとに、進化系統関係の分析と、それぞれの系統が分岐(=枝分かれ)した具体的な年代の測定を試みた。 アカンソモルファ類のグループの近縁関係は、その種の多さと比例するようにかなり複雑なようだ。これまでに様々な研究者からいくつか異なるアイデアが出されている。しかしゲノム全体をもとにしたデータは、よりはっきりした近縁関係を提示している。(アカンソモルファ類内の細かな分類や進化系統関係は、かなり複雑で専門的な知識が必要で説明もかなり長くなる。そのためここでは割愛することにする。) ちなみにこうした複雑でまだはっきりしていない進化の分岐プロセスは、一般に進化上の枝分かれ化が「比較的短期間」にまとまって起こった可能性をまず考えさせるだろう。遺伝子レベルで非常に大きな変化(変異)が起きたため、その進化の道筋が見えにくくなっている可能性もある。 一連の現生種におけるゲノムのデータは、白亜紀と新生代の境界をまたいだアカンソモルファ類の初期進化において、いくつか非常に興味深いパターンを示している。まずアカンソモルファ類は白亜紀後期「約1億年前から約8,500万年」の間に出現したと推定されている。この推定値は化石記録とほぼ同じで、より信ぴょう性が高いといえそうだ。 そして6つの主要なアカンソモルファ類のうち、5つが白亜紀と新生代の始まり(暁新世Paleocene:6千600万年―5千600万年前)の境界線近くで、ほぼ同時期に現れたという結果も報告されている。 どうもアカンソモルファ類は白亜紀末の大絶滅 ── その原因が巨大隕石の衝突によるものであれ、火山活動などが原因によるものであれ ── をまたぐようにして現れ、環境の大激変をうまいこと生き延び、後の大躍進につながる初期進化の礎を築いたようだ。 そして海生爬虫類やアンモナイト等たくさんの海洋動物群が消え失せた後に、ぽっかりと空いた生態系におけるニッチ(=地位)やスペースをうまいこと手に入れて、地質年代的に「瞬く間」に多様性を生じさせたようだ。 こうしたマクロ進化のパターンは、例えば白亜紀末間近まで陸地においてその栄華をきわめていた(鳥類をのぞく)恐竜の絶滅後、大繁栄を遂げた鳥類や哺乳類のケースと似ている。 大絶滅の後に起きる特定の生物グループの大繁栄。このプロセスはもしかすると我々が以前に考えていたより、かなり短期間のうちに爆発的に起こったのかもしれない。 大絶滅という大困難をかろうじて生き延びたすぐ後にも、生き延びた者には生物間における厳しい競争が待っていたことだろう。この競争に運よく勝ち残った結果が、今日見られる大繁栄だとしたら? 「よくやった」と夕食の食卓に並ぶサバやマグロに一声かけてあげても悪くないだろう。両手を合わせて礼儀正しく残さずいただくことも忘れないで。