新入社員向け指南書「そんな会社なら辞めちゃえ!」【作家・鈴木涼美のコラム】
もちろん、キャリアを積む女性たちを尊敬
同期の女子はアタマと性格が良い人が多かったので今でも仲良しですが、勤続十五年を超えていよいよ責任あるポジションをまかされている彼女たちは単純にかっこよく、羨ましいなとは思います。 自分にももしかしたらそういう道があったのかもしれないと郷愁(きょうしゅう)にひたることもなくはありません。会社という大きな安心材料をなくしてみたこの十年、クレジットカードを作ったり、ローンを組んだりする際の手続きは以前より相当面倒くさく、賃貸マンションひとつ借りるのも、用意しなければならない書類は会社員時代の三倍あって不便を感じることはあります。 そういう時は日本ではやはり大企業の社員って無条件に信用されるんだな、と会社員パワーを懐かしく思います。そもそも会社員時代は社員でいさえすればお金が入ってくるので、余暇はすべて好きなことができるけれど、フリーになるとお金にならないやりたいことをやるために、お金になる仕事をいくつかこなさなくてはならない、など必ずしも自由ばかりではない仕事事情もあります。
“自分らしい”人生の選択を!
ただそれで苦労ばかりだったかというと、そうでもなく、築四十年のワンルームに滞在したり、時には男の家に転がり込んだりして、それなりに楽しく生活してきた気がします。公共料金の支払いが遅れたり、税金の督促状に気づかず口座凍結の危機に直面したりはしましたが、それでもこんな狭い会社はすぐ抜け出してやる、と思った入社当初の反骨精神を忘れて、サラリーマンに染まり切ってしまうよりは私らしい選択だったかと思っています。 周囲には、私よりさらにペイの良い会社をやめてスペイン移住をした友人や、大きな会社をやめたあと小さな会社を五社も転々として、趣味転職とか言いながら楽しく働いている子もいます。 私が若い頃から、割と色々な出自の人と出会う立場にあったのも、少し肩の力を抜いて社会人生活を送れた理由の一つだと思います。たまたま友人たちが新卒から同じ企業でずっと働いている人ばかりだと、その外側にはものすごく大変で貧困で不幸な世界しか広がっていないように思えるかもしれません。そういう意味で、ちょっと普段いかない場所、それは読書会のような趣味の集まりでも習い事でもいいし、遊び場でもいいと思いますが、に出向いて友人の幅を広げると、気楽になりそうです。