〈プーチンのミサイル攻撃の“限界”〉ちらつく核使用の可能性も、立ち止まらせる見返りと反動への計算
ロシアはこれまでもイスカンデル(短距離弾道ミサイル)やキンジャール(空対地ミサイル)のように核搭載可能なミサイルを発射している。それにもかかわらず、隣国に対して戦略兵器を発射することは明らかにエスカレーションの一つのステップである。 * * *
注目されたロシアの対応措置
11月17日、米国がこれまでの方針を変更し、ウクライナに供与した射程約300キロの地対地ミサイルATACMSのロシア領内への使用を認めたことが報道され、19日、ウクライナによってATACMSを用いたロシア領内への攻撃が行われた。 これに対して、ロシアは二つの措置で応じた。一つは、19日、大統領令によってかねてより検討していた核ドクトリンを改定したことであり、もう一つは、21日、ウクライナに対して従来のものよりも射程の長い新型の弾道ミサイルで攻撃を加えたことである。この論説はこの後者について解説を加えたものである。 この論説も触れているとおり、ロシアは西側諸国が高性能の兵器でウクライナを支援することなどを累次に渡って核威嚇によって阻止しようとしてきた。一方、ロシアが設定しようとしたレッド・ラインは繰り返し西側諸国によって踏み越えられてきた。今回、米国がウクライナに供与したATACMSのロシア領内への使用を容認し、早速、ウクライナによりロシア領内への攻撃が行われたことに対して、ロシアとしては言葉以上の措置によって対応を示す必要があった。 今回、ロシアがどのような対応措置をとるのかは、ロシアが核ドクトリンを改定して、核使用の範囲を拡大した後であるだけに注目された。ロシアは、今回の改定において、非核兵器国によるロシアへの攻撃に際して、核兵器国による「参加または支援」がある場合には、両者による「共同の攻撃」と見なされ、当該核兵器国が直接にロシアを攻撃していなくても、核兵器による反撃の対象となりうるなどの変更を加えている。 今回のロシアの対応措置について、核ドクトリンの改定を踏まえて、攻撃対象と兵器の種類の二つの観点から見てみたい。攻撃対象としては、ロシアが改定した核ドクトリンからすれば、論理的に言えば、(1)(兵器を供与することで「支援」を行った)米国や英国、(2)(実際に攻撃を行った)ウクライナと二つのオプションがあったことになる。このうち、米国や英国は核ドクトリンの改定による「共同の攻撃」条項で核攻撃の対象となりうる相手となった。 しかし、ロシアは、これらを攻撃対象とはせず、ウクライナを対応措置の攻撃対象とした。「共同の攻撃」条項によって、核ドクトリン上、米国や英国が核兵器による反撃の対象となったからといって、これまで交戦関係にないこれらの国に攻撃を加えることは、戦争の著しいエスカレーションであり、(三カ国のいずれの国を攻撃対象としたとしても)北大西洋条約機構(NATO)との全面的な軍事衝突の事態となる。ウクライナでの戦争を遂行する上でも、北朝鮮の支援を必要とする中、そうしたシナリオをプーチンが選好するとは考えがたいものであった。