〈プーチンのミサイル攻撃の“限界”〉ちらつく核使用の可能性も、立ち止まらせる見返りと反動への計算
ロシアの限られた〝選択〟
対応措置の攻撃対象をウクライナとするとして、兵器の種類としては、論理的に言えば、核兵器も通常兵器もあり得た。ロシアの新しい核ドクトリンは、通常兵器による攻撃であっても「主権及び領土の一体性に対する死活的な脅威」であれば、核兵器による反撃ができることとなっていた。今回の事態がそうした脅威に該当すると主張することもできたであろう。 一方、22年秋にウクライナの反攻が効を奏しつつあるときに、ロシア軍の内部で核兵器の運用についてのやりとりが盛んに行われていた際、米国は、仮にロシアが核兵器を用いれば、通常兵器によって「明確な帰結」をもたらすことをロシアに警告したとされる。ウクライナに展開するロシア軍の多くを殲滅する作戦を考えていたとも言われている。ロシアにとって、核兵器による攻撃を行うことは、論理的に想定されるものの、得るものが少なく、失うものが甚大な作戦となったであろう。 そう考えると、ロシアにとっては、いくら強い対応措置をとりたくても、「ウクライナに対して通常兵器で攻撃を加える」という枠内に収めざるを得なかったと考えられる。 なお、今回のミサイル攻撃が行われる前にロシアから米国に事前通報がなされたという点は、注目される。ウクライナを巡って米露が厳しい対立関係にある現状にあっても、米露間で核リスクを避けるための意思疎通が維持されているのは一つの安心材料である。
岡崎研究所