ネコの“祖先”はいつ日本にやってきた!? 「ゲノム解析」で日本のネコの来歴が判明!
■ゲノム解析が示した答えは「平安時代」 人や動物の血液や骨などからDNAを取り出し、そこに残されているすべての情報を詳しく調べる「ゲノム解析」から、人や動物がいつごろどこで現れ、どのように広まっていったかを推定することができる。遺伝学者の松本悠貴さん(アニコム先進医療研究所・麻布大学)は、この方法を日本のイエネコにも応用して、来歴の謎解きを一歩進める研究成果を発表した。 松本さんは、獣医師から血液をもらうなどして日本全国から72匹のイエネコのDNAを集めた。このほかに韓国・中国などからイエネコのDNAデータも入手した。さらに、古代のネコの骨からもDNAを取り出して、これらすべてのゲノム解析を行った。その結果、次のようなことが明らかになったという。 「日本のイエネコは、中国の集団から分かれて入ってきて、最初、九州・沖縄集団が渡来していたことがわかりました。九州以北では約900年前の平安時代にまとまった頭数が入ってきています。弥生時代や古墳時代に来ていたとしても数は限られ、現代のイエネコにつながる祖先とはいえないようです。その後、鎌倉時代になって関西・中部・関東などでも数が増え始め、江戸時代になると増え方が大きくなっていきました。東北北部や北海道へは、他の地域より遅れて広まっていったことが示されました。この結果は、書物などが示す従来の説に近いといえそうですね」
■貴族にかわいがられ江戸時代には家族の一員に 世界的にみると、収穫した農産物をネズミから守るために飼われ始めたのが、イエネコの起源とされている。日本に入ってきたイエネコについても、弥生時代に来ていたのならば、同様の理由からだと考えられる。飛鳥時代から平安時代にかけて、遣隋使や遣唐使が運んでくる仏教の書物がネズミに食い荒らされるのを防ぐために、船にネコを乗せたともいわれている。そして、平安時代には貴族の愛玩動物として飼われるようになり、珍重された。江戸時代になると、墓に埋葬されたイエネコの骨が見つかっており、家族の一員のように暮らしていたネコがいたこともわかっている。そんなイエネコの来歴について、松本さんはこんな事実も紹介してくれた。 「今回の研究とは離れますが、日本のイエネコはアジアの集団にヨーロッパの集団が混血していることがわかっています。最初にアジアのネコが来て、その後、シルクロードを伝ってヨーロッパのイエネコが入ってきたのでしょう。その時期はよくわかっていませんが、比較的早い時期だったと思われます」 ペットのネコにも、先祖代々にわたる長く、波乱に富んだ歴史があった。そう考えると、身近なネコがさらにいとおしい存在に見えてくる。 (文/上浪春海)
上浪春海