「ウチを辞めれば失業だよ?」ブラック企業お決まりの脅し文句も効果なし…「労働力の希少化」が日本に引き起こす、喜ばしい変化とは?【経済評論家が解説】
いまの仕事を辞めたら、就職口が見つからないかもしれない。商品価格を上げたら、お客様が離れてしまうかも…。そんなふうに考え、つらい状況を耐え辛抱してきた、これまでの日本の労働者や企業ですが、「労働力希少」となったいま、事態は好転しつつあります。どういうことでしょうか? 経済評論家の塚崎公義氏が解説します。 年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
労働力余りの時代から「労働力希少」の時代へ
バブル崩壊後の長期低迷期、日本経済は失業に悩まされていました。景気が回復せず、労働力の需要が労働力の供給を下回る状況が続いていたのです。政府日銀は景気対策を講じましたが十分な効果を発揮しませんでした。 しかし、アベノミクスで景気が回復すると、一転して労働力が希少になりました(労働力が不足し始めました)。景気回復自体は緩やかなものでしたが、少子高齢化で労働力余剰が少しずつ緩和されていたため、僅かな景気回復でも事態が変化したのです。 川の水が少しずつ減っていたのにだれも気づかなかったとき、僅かな水不足で川底の石が顔を出した、といったイメージです。川の水が急減したわけではないけれど、人々が川の水が減っていることに気づいて驚いた、というわけです。 それ以降、新型コロナで一時的に労働力が余りましたが、それが一巡すると再び労働力が希少となっているのです。 ちなみに、筆者は労働力不足という言葉を避け、労働力希少と呼ぶことにしています。不足というと困ったことであるという語感ですが、後述のように望ましいことだからです。 もうひとつ、労働力が不足するという言葉自体、変だからです。経済学によれば、物の値段は需要と供給が一致するところに決まります。つまり、適正な価格がつけば、需要と供給は一致するはずなのです。今、労働力不足だと感じている人は、賃上げが足りないのです。 ダイヤモンドを1円で買いたいと大声で叫んでも誰も売ってくれないでしょう。その状態を「ダイヤモンドが足りない」とはいいませんよね。それと同じことだと思うのです。