時速300キロを夢見たスーパーカーの時代
クルマの最高速度を決めるのは、ざっくり言って馬力と空気抵抗だ。馬力を上げるか空気抵抗を下げれば最高速は伸びる。空気抵抗は前面投影面積と空気抵抗係数の積で決まる。厳密に言えばもちろん駆動摩擦などその他の抵抗も加味しなくてはならない。沢村氏はフェラーリ・デイトナ、ランボルギーニ・ミウラ、ランボルギーニ・カウンタックなどの一連の300キロ挑戦時代のモデルが、あと何馬力あれば本当に時速300キロを達成できたかを計算しているが、どうもそのラインはほぼ400馬力あたりにあるように見受けられる。余談だが、これが時速200キロであれば、200馬力以下でも何とかなる。 さて、この沢村氏の計算結果を眺めて、端的に面白いのはFRのデイトナでは411馬力なければ時速300キロに届かないが、ミッドシップのミウラなら377馬力で達成可能だとする計算結果だ。フロントにエンジンを置くとノーズの形状を薄くスムーズにすることができない。また前後にドライブシャフトを通さねばならない関係上車高を下げるにも限界がある。もちろんこのドライブシャフトの摩擦損失も大きい。デイトナのように重量配分の改善のために変速機をリヤデフの位置に移動したトランスアクスル・レイアウトを取れば、ドライブシャフトはクランクの回転速度を減速なしで伝えなくてはならない。摩擦が増えるのである。 つまり時速300キロに達するために、デイトナに必要な411馬力とミウラのそれ377馬力の差は、そのレイアウトがもたらす前面投影面積、空気抵抗係数、駆動損失の3つがもたらすものだと言える(沢村氏の計算では駆動損失はとりあえず除外している)。それらが大きかったとしてもそれに打ち勝つエンジン出力があればいいが、400馬力ともなれば、当時の技術ではすでにエンジン排気量は5リッター級である。大きくするにも限界に近かった。 となれば、時速300キロを市販車の世界で実現するためには3つの損失を一気に低減するミッドシップレイアウトは目標達成のための必須の条件だったのだ。しかし、一群のミッドシップ・スーパーカー、ミウラも、365BBも、512BBも、カウンタックもついに実測値で時速300キロの壁を破ることはできなかった。それは長い停滞の後でようやく実現されることになる。