【石田健×岸博之】つまらない日本を面白くするに必要なものとは?
いかがわしさも日本には大切
岸 僕が問題だと感じるのは、アッパーのレベルが下がったこと。日本はここ30年で一気に貧乏になり、ほどほどで満足するようになってしまった。 石田 確かに。自己の物欲をもっと露悪的に見せてくれる人が出てきたら、社会は面白くなると思う。 岸 自分はそんな存在になろうとは思わない? 石田 思いませんね。露悪的な振る舞いをしたら、今だとすぐに叩かれてしまいますよね。でも、まじめすぎると「つまらない」と思われる。そのギリギリのバランスが難しいんです。 岸 つまらない日本を面白くするためには、どうしたらいいでしょう? 石田 「国民共通の物語」を作ることが大事かもしれません。昔は巨大な社会階層があった。政治家が一番上にいて、その下に企業経営者、さらにその下にサラリーマンという感じで、ヒエラルキーがよくも悪くも意識されていた。そのなかで、政治家が掲げるような、全国に道路を造りましょうとか、皆で同じ方向を向くことができたと思うんです。でも、今の日本は分断社会。ピラミッドがたくさんできて、各々のピラミッドが別々の物語を持っています。 岸 各ピラミッドは情報の共有さえできていない。 石田 逆説的に、近代化される前に近いのかもしれないですよね。昔は貴族と市井(しせい)の人々が完全に分断されていた。お互いのヒエラルキーも欲望の対象もよくわからなくて、共通言語もなかった、そういう側面が今もある気がします。 岸 日本とは逆にアメリカは大きな物語作りがうまい。 石田 究極にうまいですね。例えば安全保障で米中対立があるとか、脱炭素とか、AIとか、大きなお金が動く背景には大きな物語がありますよね。 岸 日本で物語作りができていたのは田中角栄の頃まで。今はどうしてそれができないんだろう? 石田 新しい物語を作る人って、最初はいかがわしく見えますよね。マルクス主義よりも前の、初期社会主義といわれるサン=シモン主義なんか、いかがわしさの塊じゃないですか。でも、それを面白がるくらいでないと物語は膨らまない。「あの人の言っていることはよくわからないが、なんだか未来はありそうだ」というところに人は集まるのかも。 岸 日本は新しい物語が始まると、すぐに収益の話になる。それで少しでもいかがわしさが見えると、物語の芽を摘んでしまう。 石田 難しいけれど、日本が豊かになるには大きな物語を生みださないとダメ。その大きな課題に立ち向かう人に、ひとりでも多く出てきてほしいですね。 石田健/Ken Ishida 1989年東京都生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程(政治学)修了。2020年、政治、経済、テクノロジーなどのニュースをわかりやすく解説するメディア『The HEADLINE』を立ち上げ、編集長を務める。 岸博幸/Hiroyuki Kishi 1962年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。経済財政政策担当大臣、総務大臣などの政務秘書官を務めた。現在、エイベックスGH顧問のほか、総合格闘技団体RIZINの運営にも携わる。
TEXT=川岸徹 PHOTOGRAPH=杉田裕一