最先端半導体技術が集うVLSIシンポジウムが6月に開催へ。今年は何が変わった?
半導体の研究開発コミュニティでは、冬(12月と2月)に2つの大規模な国際学会が開催される。12月の学会はデバイス/プロセス技術の研究成果が披露される「国際電子デバイス会議(IEDM)」、2月の学会は集積回路技術の研究成果が集う「国際固体回路会議(ISSCC)」である。 【画像】2025年6月に開催予定のVLSIシンポジウムを説明するスライドの表紙。現地時間(米国太平洋時間)2024年12月9日の夕方に説明会は開催された そして初夏(6月)にもう1つ、大規模な国際学会が予定されている。デバイス/プロセス技術と回路技術の両方をカバーする「VLSIシンポジウム(VLSI)」である。半導体技術の研究開発コミュニティでは、これら3つの国際学会で発表することを目指して、研究論文を作成していることが少なくない。 「VLSIシンポジウム(VLSI)」は最近まで、デバイス/プロセス技術をカバーする「VLSI技術シンポジウム」と、回路技術をカバーする「VLSI回路シンポジウム」に分かれていた。両シンポジウムは当初、開催地は同じであるものの日程がずれているなど、独自色が残っていた。最近になると両シンポジウムは合同セッションを実施したり、日程を一致させたりといった動きによって一体化が進んできた。そして、2022年に1つのシンポジウムに統合した(この辺りの経緯は下記の参考記事に詳しい)。 VLSIシンポジウムは西暦の偶数年に米国ハワイ州のホノルル(「ハワイ開催」とも呼ぶ)、西暦の奇数年に京都府京都市(「京都開催」とも呼ぶ)で交互に開催することを通例としてきた。同シンポジウムの実行委員会には米国側と日本側のメンバーがおり、開催地に合わせて地元のメンバーがさまざまな事柄を差配してきた。 ■ VLSIシンポジウムの広報にIEDM取材のプレスを活用 そして広報活動の一環としてハワイ開催の時は、前年12月のIEDMでVLSIシンポジウムの委員会(主に米国側チェア)が、翌年6月の開催概要を報道機関向けに説明するプレスブリーフィングが実施されてきた。最初のプレスブリーフィングは2017年12月のIEDMである。プレスルームで2018年6月のVLSIシンポジウムに関する説明が実施された。プレスブリーフィングの開催は、IEDMの取材登録をしていたプレスメンバーだけに事前に知らされた。 2年後の2019年12月にも、IEDMのプレスルームでVLSIシンポジウムの「プレスブリーフィング」は実施された。ただし残念ながら、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行により、2020年のVLSIシンポジウムはバーチャル開催となっている。2019年12月のブリーフィングではもちろん、リアル開催を前提に概要が説明されていた。 さらに2年後の2021年12月は、IEDMがバーチャル開催となってしまい、VLSIシンポジウムの事前説明会は実施されなかった。翌2022年6月はVLSIシンポジウムのリアル開催がハワイで復活した。このハワイ開催では、日本からの参加者は出国前と現地で日本の厚生労働省が規定した方式のPCR検査を受けて陰性証明書を提出しなければならず、かなりの不便さと出費を強いられた。 IEDMも2022年12月にリアル開催が復活した。そして2023年12月のIEDMでは、翌年6月にハワイで開催予定のVLSIシンポジウムに関するプレスブリーフィングが実施された。このときは、説明者に変化があった。米国側だけでなく、日本側の委員会メンバーも2名が参加していたのだ。 さらに2024年12月のIEDMでは、2025年6月に開催されるVLSIシンポジウムの概要が報道機関向け(IEDMにプレス登録した機関およびジャーナリストのみ)に初めて紹介された。京都開催の概要がIEDMで報道機関に説明されるのは、たぶん今回が初めてだ。 ■ 投稿論文の締め切りは2025年1月27日と間近に迫る VLSIシンポジウムの投稿論文締め切りは2025年1月27日である。従って技術講演会(テクニカルカンファレンス)の一般論文は、現時点では1件も決まっていない。スケジュールでは2025年3月21日までに審査が完了し、同年3月28日までに採択の可否が投稿者に通知される。レートニュース(速報論文)の投稿締切日は同年3月31日である。 そしてレートニュースを含めた一般講演全体の詳細が決定した後に、東京を含めたアジア各地と米国でVLSIシンポジウムの正式な記者説明会が開催される。東京における説明会の開催時期は4月中旬が多い。開催形式はオンライン、あるいはインパーソン(対面)である。 ■ 「2025 VLSI」はプレイベントを6月8日~9日に、メインイベントを10~12日に開催 ここからは2024年12月9日夕方にIEDMのプレスルームで開催された「プレスブリーフィング」より、2025年6月に開催されるVLSIシンポジウム(正式名称は「2025 Symposium on VLSI Technology and Circuits」、略称は「2025 VLSI」)の概要を説明していく。 2025 VLSIの共通テーマは「Cultivating the VLSI Garden:From Seeds of Innovation to Thriving Growth」である。かなり捻ったテーマだ。前半は「VLSIの庭園を耕す」、後半は「イノベーションの種から盛んな成長まで」といったところだろうか。VLSI開発を植物の栽培にたとえており、庭園に蒔いたイノベーションの種を花や大樹などへと生育する、というイメージが浮かぶ。 次のスライドが基本日程と開催地である。基本日程は前年のVLSIシンポジウムとほぼ変わらない。6月8日がワークショップ、6月9日がショートコース、6月10日から6月12日が技術講演会(シンポジウム)となる。開催地は前回の京都開催と同じ、「リーガロイヤルホテル京都」である。 前年と大きく異なるのは、対面形式のみの開催となることだ。講演を録画した映像はオンデマンドで開催後(閉幕の1週間後を予定)に閲覧できるものの、質疑応答の枠はない。 ■ ワークショップではVLSIシンポジウムがあまりカバーしていない領域を議論 日程をもう少し詳しく説明しよう。6月9日は午後からワークショップ(ミニ講演会兼討論会)を予定する。ワークショップでは、VLSIシンポジウムではあまりカバーしていない分野がテーマとなる。ワークショップのテーマは複数あり、これらを同時並列に開催する。 ■ ショートコースはAI時代の製造技術と回路技術がテーマ 続く6月10日はショートコース(技術講座)を開催する。デバイス/プロセス技術の共通テーマ(SC1)に沿った複数の講演と、回路技術の共通テーマ(SC2)に沿った複数の講演を1日掛かりで実施する。なおSC1とSC2は同時並列に進行するので、参加者はどちらか1つを選ぶことになる。 SC1は共通テーマ「Technology focused- Key VLSI technology in the AI era」(AI時代に製造のカギとなるVLSI技術)の下に、BSPDNを含めた次世代CMOSデバイス、ロジック向け2次元電子材料、3次元異種集積などの講演を予定する。SC2は共通テーマ「Circuits focused- Circuit and Systems for AI and Computing」(AIとコンピューティングに向けた回路とシステム)の下に、AIチップの動向と概観、スケーラブルなコンピューティング、エネルギー効率の高いAIチップとその具現化、メモリ技術、ストレージ技術などの講演を設定した。 ■ 恒例となったデモセッションは月曜夜にレセプションとともに開催 6月10日の夜は、「デモセッション」兼「レセプション」を予定する。このサブイベントにはメインイベントの参加登録者であれば、誰でも参加できる。 「デモセッション」では技術講演会で研究成果の発表を予定する論文著者の一部が、研究成果をテーブルトップ形式で展示する。おおよそ15点~20点の研究成果が展示される。試作品の実物や測定の実演などの、論文では表現できない部分に工夫をこらした展示が少なくない。また来場者による投票によって最多の票を得たデモは、会期中に表彰されることになっている。 ■ プレナリーセッションはIntel、SK hynix、Media Tekなどの招待講演を予定 6月11日~13日は、メインイベントである技術講演会を実施する。11日と12日は技術講演会の前に、2件ずつの基調講演を予定する。いずれも招待講演である。2024年12月9日時点では、MediaTek、Intel、SK hynixの講演が決まっていた。残りの1件はSTMicroelectronicsと交渉中である。 ■ パネル討論会では環境問題とキャリアアップを議論 技術講演会の初日である6月11日の夜は、パネル討論会が開かれる。これも恒例のサブイベントだ。 今年(2025年)のパネル討論会は、デバイス/プロセス技術と回路技術の2つに別れて実施する。前者のテーマは「What can semiconductor industry do for greener society」(より環境に優しい社会のために、半導体産業は何ができるか)、後者のテーマは「Practical Circuits & Technology Training:Academia vs. Industry – Where Do We Learn the Most?」(実用的な回路と製造のトレーニング:大学(および大学院)と企業、最も多くのことを学べるのはどこか)である。環境問題とキャリアアップに焦点をあてた。 ■ 投稿論文のページ数は前年の2ページから今年は3ページに拡大 最後に、技術論文のページ数に大きな変更があったのでお知らせしたい。VLSIシンポジウムの技術論文は2ページ(1ページのテキストと1ページの図表)とかなり少ない。冒頭に紹介したほかの国際学会では、ISSCCがVLSIシンポジウムと同様に2ページと短い。一方、IEDMの技術論文は4ページ(2ページのテキストと2ページの図表)とそれなりの分量を確保している。 最近の投稿論文はアブストラクトではなく、フルペーパー(投稿論文がそのまま掲載される)がほとんどだ。学会の開催時に配布される論文集はPDF形式のデジタルデータなので、PDFリーダーを使って自在に拡大して閲覧できる。 ただし2ページの技術論文だと1ページに15点~20点と多くの図表を押し込めることがあり、文字が小さくて読みにくい。このため、PDFリーダーで図表の拡大を強いられることが常態化している。またプリンタで印刷すると、図表の文字が小さすぎて判別が困難なことがある。 そこで今年の「2025 VLSI」では、投稿論文のページ数を3ページに拡大し、その中で2ページを図表に割り当てた。さらに図表を説明する文字の大きさを、「8ポイント以上」と規定した。この規定に外れると、投稿しても採択されない可能性が高い。 「2025 VLSI」で最も重要な、一般講演に関する情報はこれからだ。4月に開かれると見られる、報道機関向けの正式な事前説明会を待ちたい。
PC Watch,福田 昭