「時給180円事件」から始まった図書館事件の沼 黒塗り公文書が語る官民癒着の闇とは
民間委託は、特定企業に利益供与をするための利権構造にすぎないのか? 2018年に社会保険の分野で貧困ジャーナリズム賞を受賞したフリーライターの日向咲嗣(ひゅうが・さくじ)さんの著書『「黒塗り公文書」の闇を暴く』は、官民癒着により生み出された数々の不正に光を当てる。時給180円労働。ツタヤ図書館による自社利益優先の古本買い入れ――。官民連携の問題点を、本書から一部を抜粋・再編集して解説する。 ■東京・足立区立図書館で起きた「時給180円事件」 筆者が初めて図書館についての記事を書いたのは、2015年10月のことだった。それは、後述のツタヤ図書館問題ではなく、東京・足立区立図書館で起きた「時給180円事件」と呼んでいる事件についてである。 2011年夏、足立区立図書館を指定管理者として運営していた民間企業M社(本業は金属加工)は、図書館蔵書2万冊に盗難防止BDSテープを装着する業務をパート従業員の時間外労働によって実施した。 その際、割高となる時間外手当を支払うことを避けるため、パート従業員がアフター5や休日に内職として取り組んだかのように偽装して、完全出来高払いの給与(1枚7円)を支払った(1日の仕事を終え、タイムカードを押してから図書館内で作業開始)。 その結果、作業開始当初、この作業にあたったパート従業員の賃金は、時給にすると180円にも満たない額となった。 当時、パート従業員を監督する立場にあったN副館長は「このような行為は、不正な脱法にあたるのではないか」と、再三、館長および地域学習センター長に中止するよう進言したが、それは、まったく受け入れられなかった。それどころか、正しいことを主張したはずの彼女は会社から「トラブルを起こす人間」とみなされ、翌年3月末で契約更新を拒絶され、実質解雇された。 このN副館長というのが、実は、筆者の妻だった。彼女は、2012年3月以降、不当に契約更新を拒絶されたとして、M社に雇用継続を求めて、非正規労働者の労働組合を通じて団体交渉を重ねていた。しかし、交渉が決裂したことから、2013年8月、東京地裁にM社を提訴した。 そして、2年後の2015年3月に地裁判決、8月には高裁判決で、ともに全面勝利を勝ち取ることになるのだが、その顛末(てんまつ)を身近でみてきた者として、ことの詳細を記録に残しておこうと、事件が一段落して、ある程度、客観的にみられるようになってから記事にしたのである。 身内が関与した事件を手前勝手な論理で書き散らかせば、「私憤を晴らしただけ」との批判を免れないことは十分に承知していた。だからこそ、事件のただなかでは、一切書かないことにしていた。 すべてが終わって、誰も異論を差し挟むことのない「事実」と「結果」を書けるようになってから、また、その渦中にいた者しかわからない、世の中の理不尽な仕組みに対する、憤りや怒りもあえて交えながら「事件の深層」を何本かの記事にした。