「うわ、終わった!」田中史朗がラグビー日本代表として名を呼ばれる直前の「一瞬の間」、そのワケに涙腺崩壊した!
次に呼ばれたのは流大で、そこで、マネージャーは言葉を切ったからである。 「うわ、終わった!――そう思いました。茂野、流、どっちも最高の選手。もう一人、内田(啓介)も最高。正直、能力ではもうかなわない。もし、万が一自分が選ばれるとしたら、経験を買ってもらうしかない。3人目としても相当微妙な立場にいるのに、マネージャーさんが2人の名前を言ったところで止まった。完全に、諦めかけました」 サインを欲したファンが田中の心中を知らなかったように、このときの田中は、メンバーを読み上げる大村マネージャーの胸の内を知らなかった。2人目のスクラムハーフの名前を読み上げたあと、なぜ彼は言葉を切ったのか。理由は、あとから知らされた。 「11年の時から、ずっと一緒にやってきたんですよ、そのマネージャーの方とも。なので、付き合いはだいぶ長いし深い。だから、だったそうです」 ● 「選ばれたよーって言ったら 妻が泣いて喜んでくれた」 流の次に田中の名前があったことで、マネージャーは思わず感極まってしまった。これまで日本ラグビーを牽引(けんいん)してきた小柄なスクラムハーフが、ワールドカップという大会にどんな思いを抱き、そして3度そこに立つためにどれほどの地獄を潜(くぐ)り抜けてきたのかを彼は知っている。
その可能性が、決して高くなかったことも知っている。 だが、田中の名前はそこにあった。込み上げる熱いものを感じつつ、しかし、マネージャーという立場上、間違っても感情を露(あらわ)にすることはできない。田中が入ったということは、他の誰かが外れたことを意味する。 それが、一瞬生まれた「間」の正体だった。 自分の名前が読み上げられた瞬間、田中の中で張りつめていた緊張の糸が、プツリと切れた。懸命に抑え続けてきたものが、こらえきれずに溢れだす。ただ、歪む視界の中には、メンバーから外れた男たちの姿も映っていた。 自分だけの感傷に浸っているわけにはいかなかった。 「みんな、やっぱり泣いてるんですよ。それ見たら、もうたまらなくなってしまって。布巻(峻介)、梶村(祐介)、堀越(康介)……みんな泣いてる。ぼくは……もちろん嬉しいんですけど、外れてしまった選手の気持ちも痛いほど、ホンマに痛いほどわかる。わかるだけに、どんな風に声をかけたらいいかがわからない。たぶん、リーチ(マイケル)はなんか声かけてたのかな。ぼくは結局、なにもできずに自分の部屋に帰りました」