学生に「可能性を」調教助手が考える馬業界の未来 説明会にオリンピアンも 友道厩舎所属の大江助手が主催
東京・世田谷区の馬事公苑で、10月30日から6日間にわたって開催された全日本学生馬術大会。31日の競技後、馬術に打ち込む大学生を対象に、馬業界についての説明会が行われた。 主催したのは、栗東トレセンの友道厩舎で攻め専調教助手を務める大江祐輔助手。「馬業界への間口を広げたい」という思いで活動しており、以前高校生を対象とした乗馬大会の会場で行われた説明会でも密着させていただいた。今回は進路の選択に迫られる大学生が対象だが、大江助手は「自分がどういう進路に進むのかということを真剣に考えていく時期。より現実味を持って聞いてくれていると思う」とうなずいていた。 説明会には、世界No.1ホースに輝いたイクイノックスの身の回りの世話なども担当していた楠友広調教助手と調教を担当していた阿部孝紀調教助手、そして東京五輪の馬場馬術で日本代表だった林伸伍さんがゲストとして参加した。終盤にはパリ五輪総合馬術団体で銅メダルを獲得した“初老ジャパン”のメンバーである北島隆三さんも飛び入り参加。オリンピアン2人が顔をそろえる豪華な面々で盛り上げた。 この光景を見ていて、大江助手が常々話す「競走馬だけじゃなく、馬業界全体のことを知って、“いろいろな可能性”を見てほしい」という言葉を思い出した。競馬記者をしていると競走馬に携わる人に焦点を当てがちだが、馬業界は乗馬、生産牧場、獣医師…と幾多にも道が広がっている。林さんの経験に基づく乗馬の奥深さや魅力、馬との信頼の深め方、トレセンに入るためにするべきことなど、説明会ではあらゆる目線で話が及んでいた。 そんななか、ゲストの方々が共通して口にしていたのは「馬が好き」、「乗馬をしている人達のスタートラインはかなり進んでいる」という言葉。楠助手は「幼少期はそこまで真剣に乗馬に取り組んでいなくて、トレセンに入って10年くらいはかなり苦しみました。馬術経験者はかなりそれを生かせる競馬界になっていっている」と明かす。ただ、技術が必要だからといって敷居が高いというわけではない。「馬と接していたことがそのまま生きる世界。学生の内にインターンや現場を体験することでわれわれの職業を想像してほしい」と大江助手は言う。 馬業界の人手不足は避けては通れない問題。大江助手は「引退競走馬が過ごす養老牧場もあるけど、人手が足りていないのが現状。もっと多くの馬を引き受けたくても仕事をこなす十分な人員が確保できない」と、より多くの人に業界について知ってもらうことの重要性を口にしていた。 説明会後には多くの学生がゲストの方々に熱心に質問している姿があった。一番印象に残ったのが、「本当に夢のある世界だと思う。自分も世界一の馬に乗れると思っていなかった。夢を持ち続けていってほしい」という阿部助手の言葉。自分が進む道に迷う学生たちに『可能性』を知ってもらうことが、一人一人の未来、馬業界全体の未来につながっていく。(デイリースポーツ・小田穂乃実)