【ジャパンC】ドウデュース100点 深み増した毛ヅヤが“円熟の証”
◇鈴木康弘氏「達眼」馬体診断 競走生活の晩節に輝く円熟の被毛だ。鈴木康弘元調教師(80)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第44回ジャパンC(24日、東京)では年内で引退が決まっているドウデュースに唯一満点をつけた。達眼が捉えたのは深みの増した赤褐色の毛ヅヤ。天皇賞・秋に続くG1連覇でラストシーズンを飾る構えだ。 目が心を映す鏡だとすれば、毛ヅヤは体調を映し出す鏡です。競走馬の滑らかなツヤは被毛の内面からしみ出してくる。ブラッシングだけでは引き出せない。赤褐色の光沢を放った天皇賞・秋時から一層深みを増したドウデュースの被毛。その毛ヅヤは競走生活のピークに到達した体調を雄弁に伝えています。 競走馬は完熟期を迎えると、しばしば毛色に深みが出てくる。私のような食道楽なら、「八丁みそ」、「仙台みそ」などの「赤みそ」を想起します。蒸した大豆に米こうじ、塩を混ぜ、二夏二冬、木おけの中でじっくり発酵させると、深みのある赤褐色のみそが出来上がります。みそ造りを馬づくりに置き換えれば、大豆が血統、塩が栄養分、米こうじはレースや調教の経験値、木おけは環境に相当するでしょうか。赤みその熟成期間は3~5年。ドウデュースも2歳9月のデビューから3年余の熟成を経て、赤褐色の毛ヅヤに深みが加わりました。競走生活の晩節に美しく輝く円熟の証です。 天皇賞・秋同様、その被毛には血管がうっすらと浮かんでいます。特に目立つのが肩の周辺と後膝周辺。ビロードのように薄い皮膚を持つ馬が鍛え込まれると、こういう血管が浮かびます。競走生活の晩節に誇らしく輝く鍛錬の証です。 前走時にも指摘しましたが、年を重ねて中距離からマイル仕様の体形に変わってきました。ダービー優勝当時とは見違えるほどの筋肉のボリューム。肩や首、胸前、トモが岩のように隆起しています。こういう筋肉は素晴らしい加速力を生み出す半面、長い距離をゆったりと走るには邪魔になる。今度は東京2400メートル戦。前走(2000メートル)以上に序盤、中盤で負担をかけないレース運びが求められますが、武豊騎手なら腹をくくって直線まで脚を温存できるでしょう。 毛ヅヤが体調を映す鏡だとすれば、目は心を映し出す鏡。休養明けだった前走時の馬体診断では「唯一気になるのが放牧地で草をはんでいる時のような優しい目つき」と述べました。1度使われた今回は強い眼光を放っています。引退が近づいてもファイトあふれるまなざし。競走生活の晩節に力強く輝く闘志の証です。(NHK解説者) ◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の80歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長。JRA通算795勝。重賞27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。