漏れた機密情報をもみ消したい!官僚が取った驚きの行動とは…
◆善人のふりをして国益を盾にする 佐藤 そこで私が「つまり、善人のふりをしろ、ということですね」と確認したら「まあ、そういう言い方もあるかもしれないけれども」と。 西村 なるほどね(笑)。それでお願いベースで話し合いをしたんだ? でもその記者としてはそれほどの特ダネは惜しいに決まっているでしょうね、いくら公にしたくない行状を佐藤さんに握られているとは言っても。 佐藤 そこで国益を盾に誠実な交渉をするんだよ。まず小さな部屋に呼び出して、二人きりで静かにコーヒーを飲みながら仕事上の苦労の話をする。そして少し経ったところでおもむろに切り出すわけ。 実は、あなたたちに間違えて内密の文書を渡してしまったと聞いている。記者として、情報を得た以上は書かなければいけない使命があることもよくわかる。 しかしそれがそのまま大きく扱われると、日本外交において本当に実害がある、って、事実を淡々と話した。
◆「国益」の認識を徹底する 西村 それで記者は納得した? 佐藤 おっしゃることはよくわかりました、って納得してくれたよ。ただし記者として知った以上は全く書かないわけにはいかないと。結局翌々日に出た記事は三面の社会面で、記事としても扱いが小さかった。秋葉さんに、よくここまで抑えることができたねって言われたな。 西村 なるほど、その「善人のふりをした説得」において「国益」という考えを利用したわけだね。でも、もし私が説得される側で「国益を損なうからやめてくれ」と言われたとしても、すぐに「そうですか」とはならないなあ。 本当に国益を損なうのか、それはどのような「益」なのか、それが国民にどういう影響を与えるのか、まずはその確認を徹底して求めると思うよ。 佐藤 それはそうだよね。 西村 その記者も当然検証はしたとは思うけれど。やはり佐藤さんがいろいろ脅せるネタを持っていたことも暗に効いたということだろうか? 佐藤 そこはよくわからない。 ※本稿は、『記者と官僚――特ダネの極意、情報操作の流儀』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
佐藤優,西村陽一