漏れた機密情報をもみ消したい!官僚が取った驚きの行動とは…
◆記者と官僚の同質性 佐藤 西村さんはそうだよね。でも大新聞社の記者ほど、国益という言葉に弱いイメージがあるよ。それもエリート的な同質性なんだろうけれど。 そういう意味では週刊誌やフリーランスの記者のほうが、大新聞の多くの記者よりも手強(てごわ)かった。なんせ、国益なんか知ったこっちゃねえ、日本の外交がどうなろうと俺が飯を食うために取材してるんだ、っていう生活者の論理が強い。軸が強固にある。彼らにとって関心があるのは真実かどうかだけ。ガセネタを記事にしたら次から仕事が来なくなるから。 ただこちらとしては本当に差し支えがあると困るから、そういうタイプはとても面倒だった。 西村 週刊誌やフリーランスにはない、記者と官僚の同質性、特にここでは「エリート体質の同質性」ってやつが顔を出してくるんだね。佐藤さんが国益を盾にして記者を説得した例ってある? 佐藤 たくさんあるよ。たとえば、情報公開の一端で、外務省のある職員が某新聞社の記者に間違えて機密書類を渡しちゃったときに、大事にならないよう手を打ってもらったとか。
◆情報が漏れた時の対応方法 西村 ここで話せる? 佐藤 話せる。新聞社と記者の名前は伏せるけど。 何せ漏れてはいけない情報が漏れたわけで、報道課では手に負えず、総務課に話が行ったんだ。それを聞いて当時総務課の首席事務官だった秋葉剛男さん(のちの国家安全保障局長)は真っ青。当時私は秋葉さんとあまり面識はなかったんだけど、私がその記者と面識があるということで呼ばれていった。 その記者は酒癖がよくなくて、いくつか個人的なトラブルを起こしていた。そこで私は秋葉さんに「脅しますか?」と率直に聞いた。「脅すネタならいくつかあります」と。でも秋葉さんは立派だからさ。「佐藤さん、脅すという手段はやめよう。情報を漏らしてしまったこちら側が悪いんだから」と言ったんだよね。 西村 ずいぶんと紳士的だね。 佐藤 それからペンタゴン・ペーパーズの件(1945年から1967年までのアメリカのベトナムへの政治的、軍事的関与を記した文書。極秘文書だったが1971年に文書を書いた一人のダニエル・エルズバーグがニューヨーク・タイムズ紙にコピーを渡し、同紙が一面に掲載、ベトナム戦争の舞台裏を暴く一大スキャンダルとなった)を例に出して、「記者としては、情報を知ったら書かないといけない。それが仕事だから。 しかし、この情報が一面に出たら、この先仕事がしにくくなるのは現場の佐藤さんたちだ。だからそこは脅すという方向ではなく、誠実に話し合い、お願いベースで扱いについて配慮してもらえるようになんとかならないか」と。 西村 外務省からジャーナリズムの金字塔のペンタゴン・ペーパーズを持ち出してくるとは驚いた。しかし、だんだん「ロジック」がわかってきたぞ(笑)。