サッポロ「黒ラベル」躍進、10年で20代購入6割増 ビール離れの若者に各社訴求
酒税改正を追い風にビール回帰の流れが強まる中、サッポロビールの主力ブランド「黒ラベル」が躍進している。味には一切触れない世界観を重視した独自の広告と、商品体験の機会を提供する地道な活動により、若者のビール離れが進む中で、20代の購入者数をこの10年で6割近く伸ばした。ヒットの背景には「共鳴」があるとみられ、各社とも若い世代に訴求する上でカギになりそうだ。 「グラスに10秒くらい冷水をかけ、ビールと同じ4度まで冷やします」 サッポロが運営する東京・銀座の黒ラベル体験拠点「THE BAR」で、男性スタッフがカウンター越しに「こだわり」を説明しながらビールを注いでくれた。1回の来店で提供するのは2杯まで。ミクロン単位のきめ細かな泡3割と液体7割の〝黄金の比率〟でグラスに収まり、クリーミーな口当たりと若干の苦みが飲みごたえを演出する。 こだわる姿勢を目で見てもらい、理解を深めてもらうのが狙い。2014年から全国でのイベントをはじめ「体験の場」づくりに注力してきた。「姿勢」はSNS上で拡散され、若年層の関心を引き寄せている。 ■テレビCMでイメージ作り もう一つPR戦略の「両輪」として掲げるのが、10年から始まったテレビCM「大人エレベーター」シリーズで知られる一貫したイメージづくりだ。「ビールは大人の飲み物であり、大人はかっこいい」という情緒的な価値を訴え、コクや苦味といった機能的な価値には一切触れない。 当初から味などの骨格はそのままで、苦みを抑えるようなリニューアルもしていない。担当者は「若者にすり寄るのではなく、若者を大人に引き上げるイメージ。これが受け入れられているのでは」と推測する。 同社によると、黒ラベルの販売量は14年から「両輪がかみ合って」(担当者)右肩上がりに転じ、コロナ禍期間を除く全ての年が前年比増だった。今年も1~11月で前年同期比11%増と絶好調だ。民間市場調査会社インテージの調査では、特に20代の購入者数が23年は14年比で58%増となっており、大手4社で20代を伸ばした唯一の主力ブランドとなった。半減近い落ち込みとなった他社ブランドもある中、他社の関係者は「黒ラベルは一過性の人気ではない」と指摘する。 こうした従来のビールは第3のビールや発泡酒を含む「ビール類」の税率一本化に向け、価格が手ごろになってきており、順風が吹いている状況といえる。