「エサ代だけで毎月60万円」…看取り医がみた、鳥マニアの親子が暮らしていた「命を縮める部屋」の凄まじい実態と「恐ろしい病気」
鳥の飼い主が注意すべき恐ろしい疾患とは
病院から貰った紹介状によれば、この患者さんの病名は特発性間質性肺炎とされている。特発性とは原因不明の場合に使用されることが多い。一方で間質性肺炎は粉塵や石による塵肺やスプレーの吸入などで原因が特定される場合がある。 改めて病歴を思い出してみると、当初、患者は呼吸困難や発熱、全身倦怠感を訴えていたという。その段階では気管支喘息を疑われていた。以降、呼吸困難で入退院を繰り返すが、ステロイドを使用すると呼吸困難は消えて退院となり、また、家に戻ると発作を起こしたようだった。 そのうちに患者の胸部CTに間質性肺炎の陰影が現れた。 そのため病院側は本人と息子に転院、精査を勧めたが拒否され、その後、ドクターショッピングを繰り返したようだった。私にお鉢が回る前の入院先でも、検査を拒絶して退院している。拒絶されたことにより、主治医は原因特定するには至らず、「特発性間質性肺炎」と病名をつけたようだった。 病院内で働いていると、患者さんの日常生活は把握できない。私のような訪問診療で患者宅に向かうと生活や家族関係、宗教などが嫌でも目に入る。この患者の部屋の状態を見れば、多くの医師は、この鳥が原因であろうと考えるだろう。 鳥飼病――。 過敏性肺臓炎の中に鳥飼病という疾患がある。鳥飼病は、鳥の排泄物や羽毛由来のタンパクの吸入によってアレルギー反応を起こし呼吸器症状を起こす。まさに鳥を飼っている人がかかりやすい疾患だ。 慢性化すると間質性肺炎となる。 鳥飼病の簡単な検査法として、患者さんを数日、入院させる方法がある。原因物質の吸入を回避すると自然に回復することもあるからだ。 状況証拠は“真っ黒”だった。鳥の羽と糞尿に囲まれたこの部屋の環境は、患者の命を縮めかねない。
チャンス到来
あとは本人に伝えるだけだが、紹介状には「患者本人も息子も難しい性格」とある。いや…、紹介状がなくてもすでに私はその洗礼を受けているからよく理解できる。まずは2人と打ち解けたい――。 不愛想な息子さんは、いつの間にか肩にオウムを、手にフクロウを持ってやってきていた。幸せそうだった。私に見せつけたいのかも知れない。チャンス到来である。 「いやあ、凄いですね。何羽ぐらいいるのですか?」と尋ねると、「鳥だけで60羽ぐらいかな。ほかに、哺乳類、爬虫類もいるんだ」と、うれしそうに答えた。 「へえ、餌を与えるだけでも大変でしょうね」と水を向けると、「一日中、餌やりに追われて時間がないんだよ」と、全く困ってない顔で、困ったという話をした。 鳥の世話に忙しいのか、親の介護には消極的と聞いている。ただ親もまた鳥マニア。鳥を優先できて本望なのかも知れない。 部屋の中には猛禽類も飼われていた。 「どんな餌を与えるのですか?」 そう尋ねると、「よくぞ聞いた」という顔で、冷蔵庫に行き、スーパーの肉売り場で使用されている発泡スチロールの容器を私にみせてくる。 見慣れぬ肉が並んでいた。よく見ると、20匹ほどの皮を剥がされれたマウスだった。はじめてみた。 「月にエサ代だけで60万円以上かかるんだよね…」 こちらは本当に困った顔をして話した。 ケアマネからは「息子の拒否にあって、介護ベッドさえ導入できていない」と聞いていた。その他のサービスも一切、拒否されたらしい。決して、暮らし向きは良いとは思えないが親の年金も全て、自分たちの趣味に充ててしまっているのだろう。
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