太宰治賞・市街地ギャオさん 承認欲求から脱し、「ただ書きたくて」1年で7つの文学賞に応募 連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」#17
小説家志望のライター・清繭子が、文芸作品の公募新人賞受賞者に歯噛みしながら突撃取材する。なぜこの人は小説家になれたのか、(そして、なぜ私はなれないのか)を探求し、“小説を書く”とは、“小説家になる”とは、に迫る。今回の「小説家になった人」は、「メメントラブドール」が第40回太宰治賞に選ばれた市街地ギャオさん。30歳になった昨年、1年で7つの文学賞に応募。その情熱と成果の理由は「無欲」だった。……耳が痛い。(文:清 繭子、写真:本人提供) 【あらすじ】 第40回太宰治賞 受賞作「メメントラブドール」 SIer(システム開発会社)に勤めながら、男の娘カフェ「ラビッツ」でも働く私は、Tinderで出会ったノンケの男性を自宅に誘い、性行為の動画を撮ってTwitterにアップしている。最初は撮られることを警戒していたはずの大学生・カズが、ある日突然「もっとバズる動画にしましょうよ」とあれこれ指示を出し始めて――。
小説は「お勉強」だと思ってた
市街地ギャオさんは関西在住のため、今回はオンライン取材となった。主人公の趣味が「ノンケ喰い」という刺激的な受賞作に金髪のプロフィール写真、個性的なペンネーム。どんな人かと思ったら、画面に映し出されたその人は慎ましく微笑んでいた。 「高校の図書室で金原ひとみさんの小説に出会うまで、小説は数学と同じようなお勉強のひとつだと思っていました。でも、金原さんの『星へ落ちる』を読んだとき、『これ、自分の気持ちやん』と思って。小説って自分が生きてるこの世界の輪郭を言葉で捉えたものなんだ、とその魅力に取り込まれました」 初めて小説を書いたのは25歳のとき。Twitterのタイムラインに流れて来た小さな文学賞の広告がきっかけだった。 「その頃、すごく仲のよかった友達と喧嘩別れしたり、パートナーとお別れしたり、その原因は自分にもあって、人間関係って当たり前に双方がサステナブルを意識していないと続かないんだなと沈んでいたんです。そのときは新しく人間関係を構築する気になれなくて、じゃあ一人でできることってなんだろうと思ったときに、ちょうどその広告を見たんです」